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舞台・演劇におけるインベンションアクトとは?

美術の分野におけるインベンションアクト(いんべんしょんあくと、Invention Act、Acte d’invention)は、舞台・演劇において新たな物語構造や演技形式を俳優・演出家が即興または創作を通じて生み出す行為、あるいはそのように構成された演劇パートや作品形式を指す用語です。

語源の「インベンション(Invention)」は、英語・ラテン語の “invenire”(発見する・見出す)に由来し、「創案」や「発明」といった意味合いを持ちます。この概念が舞台芸術に転用されることで、従来の戯曲や演出様式に依存しない、創造的・実験的な舞台構成の一部として位置づけられました。

フランス語圏においては “Acte d’invention” という表現が用いられ、特にアヴァンギャルド演劇や現代パフォーマンスの文脈で頻繁に登場します。観客の想像力に働きかける非言語的・非線形的な構成要素を含むことが多く、物語の中での明確な因果関係や時間軸を逸脱する表現が試みられるのも特徴です。

インベンションアクトは、舞台表現において、既存の型や演出法にとらわれず、演劇の未来や可能性を模索する実践の象徴ともいえる言葉であり、観る者・演じる者の双方に新しい芸術的な視点を提示する概念といえるでしょう。



インベンションアクトの起源と発展の背景

インベンションアクトという概念が定義的に登場したのは比較的近年であり、20世紀後半の実験演劇運動のなかでその意識が明確になっていきました。特に1960年代から70年代にかけて、ヨーロッパやアメリカで進行したポストドラマ演劇(Postdramatic Theatre)の潮流がこの発想に大きな影響を与えました。

従来の演劇が台本=物語の再現に重点を置いていたのに対し、インベンションアクトではパフォーマー自身の創造的発話や身体性を中心に舞台が展開されます。たとえばピーター・ブルック、ロベール・ルパージュ、アリアーヌ・ムヌーシュキンといった演出家たちは、既成の戯曲を再構築・分解・再発明しながら、まさに「発明の行為=インベンションアクト」を実践してきました。

日本においても、1980年代以降の小劇場ブームの中で、若手演出家や劇団が自由な創作を展開し、テキストと演技の境界を曖昧にする舞台を打ち出していきました。その中で「インベンションアクト」という言葉が明示的に使われることは少ないものの、演劇的実践としての精神は共有されています。

特に近年では、テクノロジーとの融合(プロジェクション、インタラクティブデバイス等)を取り入れた新たな表現の文脈において、「発明的な行為」としてのインベンションアクトが再注目されつつあります。



インベンションアクトに見られる主な特徴と技法

インベンションアクトの中心的な要素は、既存のドラマトゥルギーに依らない創造的表現にあります。その手法や技法には、以下のようなアプローチが含まれます:

  • 即興性:台本に依存しない、パフォーマーの瞬間的な判断と反応によって場面を創出。
  • コラージュ構成:映像、音声、身体表現、物語断片などを組み合わせて非線形の演劇を形成。
  • 観客参加型構成:観客とのインタラクションを通じて舞台の展開が変化する。
  • メタ演劇:演劇そのものを問い直すような構成(例:俳優が「役を演じている自分」を語る)。

また、舞台装置や照明、映像表現も「発明」の一部として扱われることがあり、これらすべてが融合して「一つのアクト=発明の場」となるのが特徴です。

そのためインベンションアクトは、一回性と再現不可能性を強く持ち、芸術としての「ライブ性」を最大限に活かした演劇様式といえます。



現代の舞台におけるインベンションアクトの意義

現代における舞台芸術の多様化とともに、演劇の定義そのものを問い直す動きが活発化しており、インベンションアクトはその最前線に位置するアプローチとして認識されています。

たとえば、ある劇団が特定のテーマだけを提示し、俳優たちが日替わりでそのテーマに即して即興演技を行う。そこに物語性はあっても固定された脚本は存在しない。このような演劇は、まさに「発明された一夜限りのアクト」として位置づけることができます。

また、AIや生成型アートとのコラボレーションも新たなインベンションアクトを生み出しています。俳優がAIによる台詞生成に応答しながら演技を進める構成や、観客のリアルタイム投票で物語が分岐する演出など、舞台そのものが「発明の場」として成立する例が増えているのです。

このように、固定された演出・台本に頼らず、常に更新・変化し続ける演劇こそが、現代の観客が求める「体験としての演劇」の一形態であり、その象徴がインベンションアクトであるといえるでしょう。



まとめ

インベンションアクトは、演劇の枠組みを柔軟に超え、創造と表現の可能性を拡張する舞台芸術の一形式です。

その即興性、非線形性、多様な技術との融合、そして観客との共創性によって、演劇の未来像を指し示す存在とも言えるでしょう。これからの舞台において、台本に縛られず、新たな演劇体験を探る試みとして、「インベンションアクト」はますます重要性を増していくと考えられます。


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