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舞台・演劇におけるウェアハウスシアターとは?

美術の分野におけるウェアハウスシアター(うぇあはうすしあたー、Warehouse Theatre、Théâtre d’Entrepôt)は、文字通り「倉庫」を意味する「ウェアハウス」を活用した劇場空間を指します。伝統的な劇場建築とは異なり、もともと演劇目的で設計されていない産業用の建築物や物流施設を再利用し、演劇公演やパフォーマンスアートを行う場とするのが特徴です。

この形式の劇場は、一般的に天井が高く、広い空間と開放的な床面を持ち、可動式の客席やステージを自由に配置できるなど、極めて柔軟性の高い構造を有しています。したがって、従来の舞台装置にとらわれない実験的演出や、観客参加型のインタラクティブ演劇、さらにはダンスやインスタレーションアートなど、幅広い表現に対応できるプラットフォームとして注目を集めています。

英語表記は「Warehouse Theatre」、フランス語では「Théâtre d’Entrepôt(テアトル・ダントルポ)」と呼ばれ、現代演劇やアヴァンギャルド芸術の場として欧米を中心に広がりを見せています。とくにロンドン、ベルリン、ニューヨーク、東京などの都市部では、遊休不動産の活用という側面からも都市再開発の一環として積極的に取り入れられています。

ウェアハウスシアターは、物理的な空間の再解釈にとどまらず、演劇のあり方そのものを問い直す表現の実験場として、演出家・パフォーマー・観客それぞれにとって新たな舞台体験を提供しています。



ウェアハウスシアターの歴史と発展

「ウェアハウスシアター」という概念が生まれたのは、1970年代のアメリカやイギリスにおけるオフ・ブロードウェイ、オフ・オフ・ブロードウェイ運動や、ポストモダン演劇の興隆と密接な関係があります。

当時の若手劇団やアーティストたちは、経済的制約から伝統的な劇場を借りることができず、安価な家賃で借りられる倉庫や工場跡を使って公演を行い始めました。これが結果的に、形式に縛られない自由な演劇空間として評価されるようになり、ウェアハウスシアターという形態が誕生します。

1977年に設立されたイギリス・サリー州の「Warehouse Theatre」は、この種の劇場の象徴的存在とされ、以降ヨーロッパ各地で類似の取り組みが広がりました。アメリカではニューヨークの「The Kitchen」や「PS122」などもウェアハウス型のスペースとして名高い存在です。

日本では1990年代以降、東京都心部や大阪の再開発エリアで、使われなくなった倉庫や工場を一時的に演劇空間として転用する試みが増加。2010年代には「アート×都市開発」の文脈の中で、文化創造拠点としてのウェアハウスシアターの可能性が注目されるようになりました。



ウェアハウスシアターの特徴と演出上の利点

ウェアハウスシアター最大の特徴は、その「非劇場性」にあります。元々が演劇用途ではない空間であるがゆえに、従来のプロセニアム形式(舞台と客席が分離された構造)に縛られず、演出の自由度が非常に高いという利点があります。

演出面での主な利点は以下の通りです:

  • 空間の可変性:客席と舞台の位置関係を自在に設定でき、ラウンド形式や360度型の演出も容易。
  • スケールの大きさ:天井が高く広大な空間が多いため、大道具やプロジェクションマッピングの設置にも向いています。
  • インスタレーションとの親和性:視覚芸術やサウンドアートとの融合も可能で、没入型演出に対応しやすい。
  • リアルな質感:工業的な質感や経年劣化した壁面・床などが、作品に独特のリアリティや荒々しさを与える。

さらに、舞台芸術におけるサステナビリティの観点からも、既存施設の再活用という形で環境負荷を抑えた表現空間として評価されています。

こうした自由度の高さにより、近年では「没入型シアター(Immersive Theatre)」や「サイトスペシフィック演劇(Site-specific Theatre)」といった、観客の五感を刺激する体験型演出との相性が良く、観客参加型の新しい演劇様式を可能にしています。



現代における活用事例と社会的意義

現在、ウェアハウスシアターは単なる演劇公演の場にとどまらず、地域社会との接点を持つ文化拠点としての役割も担っています。特に欧米諸国では以下のような形で積極的に活用されています:

  • アートフェスティバルの開催地:元倉庫が国際的な演劇・ダンス・アートイベントのメイン会場となる。
  • 多目的文化施設:演劇に加え、映画上映、ワークショップ、ギャラリースペースとしても運用される。
  • 若手アーティストの発表の場:インディペンデントな表現者が低コストで創作発表を行えるスペースとして機能。

また、都市計画の中で空き倉庫を文化施設として再生する取り組みも活発で、都市の空洞化対策や地域活性化という点からも重要な意味を持っています。

日本でも近年、横浜・神戸・札幌などの都市において、港湾倉庫や旧工場をリノベーションしたアートスペースが増加。劇団や美術団体、市民団体と連携し、地域住民とアートの架け橋となる「開かれた劇場」のあり方が模索されています。

加えて、コロナ禍以降の新しい公演形式として、広い空間を活かした「ソーシャルディスタンス演出」や「人数制限付き公演」にも対応しやすい点が再評価されています。



まとめ

ウェアハウスシアターは、演劇と空間の新たな関係性を提示する舞台芸術の先進的な形態です。

歴史的には代替的な演劇スペースとして誕生しましたが、現在では表現の自由度・空間的柔軟性・地域との関係性といった多面的な価値を持ち、国際的にその重要性が高まっています。

今後も、アートと都市の融合、環境配慮、インクルーシブな文化拠点としての発展など、演劇の枠を超えた文化的可能性を内包する「劇場の未来型モデル」として、ウェアハウスシアターはその地位を確立していくことでしょう。


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