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舞台・演劇におけるオーディオビジュアルアクトとは?

美術の分野におけるオーディオビジュアルアクト(おーでぃおびじゅあるあくと、Audio-Visual Act、Acte Audiovisuel)は、音(オーディオ)と映像(ビジュアル)を同時に用いたパフォーマンス表現、あるいはこれらを中核に据えた舞台上の演技・演出を指す現代的な舞台芸術の形式の一つです。舞台・演劇の分野では特に、俳優やパフォーマーの肉体的な演技と、音響・映像メディアとの統合によって構成されるインターメディア的な表現形態として注目されています。

オーディオビジュアルアクトは、視覚と聴覚に同時に訴える手法によって、観客の感覚的・情動的な体験を強く喚起する演出スタイルであり、従来の「物語中心」の演劇とは異なり、空間・身体・メディアの交錯によって表現を立ち上げるという特徴を持っています。英語では ""Audio-Visual Act""、フランス語では ""Acte Audiovisuel"" と表記され、美術や音響アート、現代舞踊、演劇、映像芸術の領域を横断する概念として定着しつつあります。

この用語は特に、メディアアートやテクノロジー演劇の流れの中で発展してきました。たとえば、ライブVJ(ヴィジュアルジョッキー)やサウンドアートと連動したパフォーマンス、あるいはプロジェクションマッピングを用いた舞台演出などが「オーディオビジュアルアクト」に該当します。舞台空間を「体験の場」として捉える今日の演出思考のなかで、視覚と聴覚の統合表現は不可欠な要素となり、実験的かつ感覚的なパフォーマンスを創出しています。

また、演劇や舞踊作品において、生演奏とリアルタイム映像投影を同時に行うような形式は、単なる演出技法にとどまらず、「アクティング(演技)」そのものの定義を拡張する動きと見なされます。すなわち、演じる主体=身体と、技術的な出力=映像・音響との相互作用が一体化された表現が「オーディオビジュアルアクト」において重視されるのです。

近年では、デジタル機器の進化やメディアの低価格化により、小劇場や個人ユニットにおいても「オーディオビジュアルアクト」の導入が進んでおり、既存の演劇表現に新たな感性を付与するツールとして、急速に普及しつつある概念です。



オーディオビジュアルアクトの起源と発展

「オーディオビジュアルアクト」という用語が使われ始めたのは、1980年代後半のヨーロッパにおけるメディアアート運動のなかで、演劇・ダンス・映像・音楽が融合したライブパフォーマンスを指す文脈においてでした。当初は美術館やフェスティバルの場で「マルチメディア・パフォーマンス」と呼ばれていたものが、次第に「視聴覚(audio-visual)」という言葉で再定義され、演劇における「アクト(演技・行為)」と統合されることで、ジャンル横断的な新表現としての位置付けがなされるようになりました。

特に1990年代のデジタル映像機器の普及と、Max/MSPやPure Dataといったリアルタイムオーディオビジュアル処理が可能なソフトウェアの登場は、この概念の発展を加速させました。舞台上の俳優の動きや声に反応して、映像や音響が即座に変化するインタラクティブな表現が生まれ、演技空間の概念自体が変容していったのです。

2000年代以降は、オーディオビジュアルアクトは先鋭的な芸術表現として、ヨーロッパの演劇祭やアートフェスティバルで盛んに上演され、日本国内でもKAAT(神奈川芸術劇場)やTPAM(国際舞台芸術ミーティング)などで注目を集めるようになりました。「演技とテクノロジーの融合」は、もはや特異な実験ではなく、舞台演出の重要なオプションの一つとして定着しつつあります。



舞台芸術における表現の特徴と技術

オーディオビジュアルアクトの最大の特徴は、身体・音響・映像が相互に影響し合うダイナミズムにあります。演者の動きに連動して映像が変化したり、声の高さによって空間の照明が変化したりするなど、観客は舞台上のあらゆる要素が「ひとつの生命体」として共鳴しているような印象を受けます。

こうした表現を支える技術としては、以下のようなものがあります:

  • センサー技術:動作検知(Kinect、モーションキャプチャ)、音声認識などにより、俳優の動きや声をトリガーとしてメディアを制御。
  • 映像投影技術:プロジェクションマッピングやリアルタイムCGによる視覚表現。
  • サウンドシンセシス:リアルタイムの音響処理やループ生成による即興演奏。
  • インタラクティブシステム:ソフトウェア(TouchDesigner、Isadora、Ableton Liveなど)による総合制御。

これにより、演者の演技は従来の身体的行為だけでなく、「音と映像を生み出す操作」としての性格も帯びてきます。つまり、演者自身が「メディアを奏でる存在」となるのです。

こうした演出は、観客にとっても「一体化した体験」として迫り、五感を総動員させるような没入型演劇(Immersive Theatre)や、拡張現実を用いたAR演劇とも高い親和性を持ちます。



芸術的意義と未来の展望

「オーディオビジュアルアクト」は、単にメディア技術の応用にとどまらず、演劇における「行為」の意味を問い直す芸術的挑戦でもあります。たとえば、言葉を使わない表現や、身体が見えない状態で音と映像だけが提示される演出などは、「見る」「聴く」という観劇の原点に立ち返らせる効果を持ちます。

また、現代の観客はスマートフォンやSNSといった多層的メディア環境に生きているため、舞台上の表現もまた多層的であるべきという観点から、オーディオビジュアルアクトはまさに時代に即した表現手法として期待されています。

教育分野においても、演劇学校や美術大学などでは「メディアと身体の統合演習」として、オーディオビジュアルパフォーマンスを実践するカリキュラムが導入されており、表現とテクノロジーを両立させる次世代アーティストの育成にも寄与しています。

今後はAIや生成系メディアの進化により、オーディオビジュアルアクトの即興性と反応性がさらに高まり、より観客参加型、あるいは環境適応型の表現へと発展していくと考えられます。



まとめ

オーディオビジュアルアクトとは、音と映像を演技の一部として統合し、舞台上での表現を視覚・聴覚の両面から再構築する新たなパフォーマンス様式です。

技術の進化により、センサーやリアルタイム制御が可能となった現代において、演者の身体性とデジタルメディアの融合は、演劇の未来に新しい地平を開いています。

その意義は、単なる演出手法の一つではなく、「演じること」の定義そのものを広げることであり、今後も舞台芸術の多様性と革新性を象徴するキーワードとして注目され続けるでしょう。


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