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舞台・演劇におけるオープンフォームアクトとは?

美術の分野におけるオープンフォームアクト(おーぷんふぉーむあくと、Open-form Act、Acte à forme ouverte)は、舞台・演劇において明確な始まりや終わり、定型的な筋書きを持たず、演者と観客の関係性や演出の自由度が極めて高いパフォーマンス形式を指します。従来の「閉じた構成」に対して「開かれた形式」を特徴とし、即興性、選択肢の多様性、演出上の可変性を含む構造となっています。

「オープンフォーム(Open-form)」という概念はもともと美術や音楽の領域で語られてきたものであり、彫刻や現代音楽においては、観る者・聴く者の解釈や選択によって意味が変化する形式を指して用いられました。これを舞台芸術に応用したものが、観客参加型の演出マルチエンディング構成などを特徴とする「オープンフォームアクト」です。

この形式では、脚本が一意に定まっていなかったり、演者による即興が組み込まれていたりすることで、毎回異なる上演結果が生まれる点に大きな特徴があります。また、観客が選択肢を提示されたり、会場内を移動したりといったインタラクティブな要素も重視される傾向にあります。

英語では「Open-form Act」、フランス語では「Acte à forme ouverte」と呼ばれ、特に現代演劇や実験演劇、パフォーマンスアートの分野で用いられており、演出家・俳優・観客の共同創造を促す枠組みとして評価されています。



オープンフォームアクトの起源と発展

オープンフォームアクトの思想的な起源は、1950年代から60年代にかけての前衛芸術運動にさかのぼることができます。特にジョン・ケージの音楽作品やアラン・カプローによる「ハプニング」、さらにはイヴォ・マロックによるオープンフォーム建築理論などが、舞台芸術における「開かれた構造」という概念に大きな影響を与えました。

舞台においてこの概念が顕著になったのは、1960〜70年代のヨーロッパやアメリカの実験演劇においてです。ピーター・ブルックが唱えた「空間の聖性」や、イェジー・グロトフスキの「貧しい演劇」なども、形式よりもプロセスや体験に価値を置くという点でオープンフォーム的な発想と共鳴しています。

日本では唐十郎や寺山修司の演劇活動において、明確な筋立てを持たない詩的・身体的な表現が展開され、観客に解釈の余地を与えるスタイルが「オープンフォームアクト」に近しい特徴を持っていました。

さらに21世紀以降は、インターネットやインタラクティブメディアの発展とともに、オープンフォームアクトはデジタル技術とも融合し、観客の選択によって物語が分岐する演劇体験なども実現されています。



オープンフォームアクトの特徴と演出技法

オープンフォームアクトには、以下のような特徴が見られます:

  • 多様なシナリオ展開:物語に複数の結末が用意されており、演者の選択または観客の介入によって物語が変化します。
  • 観客の参加:演者と観客の境界が曖昧になり、観客が作品の進行に関与する場合もあります。
  • 即興性:脚本の一部または大部分が即興で演じられることがあり、同じ作品でも毎回異なる上演が行われます。
  • 流動的な空間構成:舞台の区切りが曖昧で、観客が移動することもある(サイトスペシフィック形式と組み合わさることも多い)。

演出家は、事前にシナリオの選択肢や演出可能性を設計しつつも、俳優には状況に応じた自由な演技を求めることが多くなります。演出の一貫性や整合性よりも、体験の即時性と偶然性が重視されるのが特徴です。

また、最近ではテクノロジーを利用した「オープンフォーム演劇」も登場しており、観客のスマートフォンからの投票によって展開が決まる演劇や、オンライン視聴者の反応をリアルタイムで反映する形式も存在します。これにより、オープンフォームアクトは舞台芸術の双方向性をさらに強化する手段となっています。



現代演劇における意義と課題

現代におけるオープンフォームアクトは、単なる演出形式を超えて、社会や芸術そのものの在り方に問いを投げかける存在となっています。

社会参加型アートの文脈で語られることもあり、特に以下のような意義が注目されています:

  • 表現の多様性の拡張:従来の枠組みにとらわれない表現が可能となり、より多くの声を舞台に乗せることができる。
  • 観客との関係の再構築:観客を「受け手」から「共演者」へと変えることで、新しい芸術体験を創出する。
  • 偶然性と生の強調:毎回異なる展開により、「今、ここ」の体験が強く印象づけられる。

一方で課題も存在します。構造が複雑になりすぎると、観客が混乱したり演出の意図が伝わらなかったりする可能性があります。また、俳優には高度な即興力と柔軟性が求められ、演出家は多層的な構成管理を担う必要があります。

それでもなお、現代社会の多様性と変化のスピードに対応する芸術表現として、オープンフォームアクトは新しい可能性を切り拓き続けているのです。



まとめ

オープンフォームアクトは、構成や展開を固定せず、演者と観客の関係性や即興性を重視する舞台表現の一形態です。

歴史的には前衛芸術運動や実験演劇に起源を持ち、現代においてはテクノロジーとの融合や観客参加型の演出など、多彩な形で進化を続けています。観客と舞台の新しい関係性を模索し、舞台芸術の枠を超える実践として、今後も注目されるジャンルであることは間違いありません。


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