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舞台・演劇におけるオープンリールとは?

美術の分野におけるオープンリール(おーぷんりーる、Open Reel、Bande ouverte)は、磁気テープを使用する録音・再生装置、またはそのテープ形式を指す用語で、舞台・演劇の分野においては主に効果音・音楽・ナレーションの再生手段として活用される音響機材の一種です。

オープンリールは、リール(巻き取り用の円形の枠)に巻かれた磁気テープを利用して録音・再生を行う形式で、カセットテープとは異なり、テープがむき出しであることが特徴です。20世紀中頃には、スタジオ録音・ラジオ放送・劇場音響などのプロフェッショナルな現場で広く使用されていました。

演劇や舞台美術の領域では、録音された音素材の高音質な再生や、テープの物理的操作による音響演出(スピード変化・逆再生など)を目的として、舞台効果音や音響演出における重要なツールとして導入されました。現在ではデジタル機器の普及により使用頻度は減少しましたが、アナログ特有の音質と操作感から、現代でも一部の舞台演出家や音響デザイナーによって使用されています。

英語では「Open Reel」、フランス語では「Bande ouverte」または「Magnétophone à bandes ouvertes」と表記され、演劇技術用語として世界的に共通して理解される概念の一つです。



オープンリールの歴史と舞台演出への導入

オープンリールの技術は、1930年代にドイツで開発された磁気録音技術に端を発します。第二次世界大戦後、アメリカの音響技術者たちがこの技術を輸入・改良し、1940年代後半から1950年代にかけて商業的な録音・放送業界で広く普及しました。

演劇界では1950年代〜1970年代にかけて、オープンリールが舞台演出の中核的な音響手段として使用され始めました。当時はテープの編集も物理的に切り貼りする手法で行われ、演出家や音響担当者は、録音素材の再構成や効果音の演出において、高度な技術と創造力を求められていました。

たとえば、ピーター・ブルックやロバート・ウィルソンといった実験的な演出家は、オープンリールを用いた音声構成によって、舞台空間に独特の音響的「テンション」を持ち込む手法を多用しました。また、日本の演出家・鈴木忠志や蜷川幸雄の舞台にも、音素材の質と編集の自由度の高さから、オープンリールが積極的に採用された事例が見られます。

こうした背景により、オープンリールは単なる録音機器にとどまらず、舞台表現の一環としての「道具」として演劇に組み込まれてきたのです。



オープンリールの構造と演劇的利用

オープンリール装置は、次のような構成要素を持ちます:

  • リール(供給・巻き取り):磁気テープを収める2つの円盤状のリール。
  • キャプスタンとピンチローラー:テープを一定速度で送るための駆動機構。
  • 再生・録音ヘッド:磁気信号を記録・再生するコア部品。

これらを用いることで、演出家や音響オペレーターは以下のような舞台演出を実現してきました:

  • タイムラグを活用した音響演出:セリフと効果音の時間的ズレを意図的に作る。
  • 逆再生・高速再生:機械的なテープ操作で異化効果を狙う演出。
  • 音のループや多重再生:テープを切り貼りして音の構造を変化させる。

また、オープンリールの可視性も舞台装置の一部として活用されることがあります。リールが回転する動きや、物理的な「音の発生装置」としての存在感が、舞台の世界観を象徴するモチーフとして使用されることもあります。

一例として、無機質な機械音の象徴として舞台袖に設置されたリールが、登場人物の記憶や時間の流れを暗示する仕掛けとして使われることもありました。



現代における意義と再評価

現在では、デジタル録音・再生装置の発展により、オープンリールの使用は限定的になっています。しかしその中でも、以下のような理由により、再評価されつつあります。

  • アナログ特有の音響質感:磁気テープによるわずかな音揺れや温かみのある音質。
  • 手作業による音響演出:再生スピードの調整や物理編集の創造性。
  • ビジュアル効果としての使用:古典的・レトロな印象を強調する演出。

特に現代の舞台演出では、デジタル機器とアナログ機器を併用することで、視覚的・聴覚的なコントラストを生み出し、観客の注意を誘導する演出が増加しています。こうした流れの中で、オープンリールはアナログ時代の遺産ではなく、現代的な再解釈の対象として舞台芸術に生かされているのです。

また、教育機関や演劇研究の現場では、音響技術の歴史を学ぶ教材としても活用されており、技術継承の観点からも重要な位置づけを保っています。



まとめ

オープンリールは、磁気テープによる録音・再生機器として、舞台・演劇の音響演出において長く重要な役割を果たしてきました。

そのアナログ特有の音響性、操作の身体性、視覚的な存在感により、演劇空間にリアルな臨場感と象徴性を与える手段として用いられてきました。デジタル技術が主流となった現代においても、その魅力と表現の可能性は色褪せることなく、むしろ新たな文脈での活用が模索されています。

技術的装置としてだけでなく、演劇的な語りの一部として、オープンリールは今後も舞台芸術において静かに息づいていくことでしょう。


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