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舞台・演劇におけるオーラルシアターとは?

舞台・演劇の分野におけるオーラルシアター(おーらるしあたー、Oral Theater、Théâtre oral)は、個人や集団の語りや証言を中心に構成される演劇形式であり、脚本化された物語ではなく、語り手自身の言葉を舞台で再構成・上演するスタイルの演劇を指します。この演劇手法は、歴史的・社会的出来事に対する個人の記憶や経験、証言を素材とし、それらを朗読、モノローグ、対話形式などを通じて観客に届ける点に大きな特徴があります。

「オーラル(oral)」とは「口述の、語りの」という意味を持ち、英語表記では Oral Theater、フランス語では Théâtre oral(テアトル・オラル)と表記されます。台本をもとにした伝統的な演劇とは異なり、語られる言葉そのものが演出の中核を成すのが、オーラルシアターの最大の特徴です。

この形式の演劇は、ドキュメンタリー演劇(documentary theater)やヴァーバティムシアター(verbatim theater:証言演劇)とも関連が深く、政治的・社会的メッセージを含むことが多い点が特徴です。実際に語られた証言をもとに演出されるため、リアルな感情や事実の重みを観客に直接伝えることが可能です。

本記事では、オーラルシアターの歴史的背景、手法的特徴、そして現代における演劇表現としての意義について、体系的に解説いたします。



オーラルシアターの起源と発展

オーラルシアターの起源は、20世紀初頭の欧米における労働者や戦争被害者など、社会の周縁に置かれた人々の声を舞台で表現しようとする運動にあります。特に1960年代以降の公民権運動やフェミニズム運動などと連動して、「市民の声」を舞台に乗せる演劇が各地で広がりました。

1970年代には、イギリスの「ヴァーバティムシアター」やアメリカの「ドキュメンタリー演劇」が発展し、実際のインタビューや証言を忠実に再現するスタイルが確立されます。これらの動きは、単なる創作としての演劇を超えて、歴史的事実や社会的記憶の再現、記録としての機能を帯びるようになりました。

日本でも1990年代以降、市民劇団や地域演劇の中でこの形式が取り入れられ、被爆者の証言劇、東日本大震災の語り部演劇、高齢者のライフヒストリー劇など、個人の体験に根差した舞台作品が数多く生まれています。



手法としての特徴と演出技法

オーラルシアターは、通常の演劇のようにフィクションに基づいた台本ではなく、実在する人物のインタビューや発言をテキストとして構成されます。これらは演出家や劇作家によって編集され、舞台上で朗読・再現されることでドラマ性が付与されます。

代表的な手法には以下のようなものがあります:

  • ヴァーバティム(逐語)再現:インタビューの語りをそのまま再現する形式
  • ナラティブ形式:語り手の一人称によって語られる演出
  • 対話構成:複数の証言を会話形式で交差させるスタイル
  • 身体表現との融合:語りに加え、身体動作や舞踏を用いる演出

また、語り手自身が演者となるケースも多く見られ、当事者性の強い表現が可能となります。一方で、演出家や俳優が他者の語りを演じる場合は、声のトーンや感情の抑制が求められ、誇張や演技過剰にならないよう注意が払われます。

このように、声・言葉・記憶を主軸にした演出構造は、オーラルシアターの本質を形作っており、観客の「聴く姿勢」や「共感力」に直接訴える力を持っています。



現代演劇における意義と展望

現代におけるオーラルシアターは、単なる演劇形式にとどまらず、記憶の継承や社会的対話の手段としても重要視されています。特に、災害、戦争、差別といった問題を扱う際には、当事者の「生の声」を通して社会に問いを投げかける役割を担っています。

近年では、以下のような分野でその効果が確認されています:

  • 教育演劇:学校教育における道徳教育・歴史教育の補助教材
  • 地域再生:地域住民の記憶を掘り起こし、世代間のつながりを創出
  • 医療・福祉:高齢者や患者の語りを尊重するセラピー的演劇
  • アーカイブ演劇:口述記録を未来に残す記録としての舞台作品

また、オンライン配信やポッドキャストとの融合により、非劇場型のオーラル表現も活発化しており、国境や言語の壁を越えた共有が進んでいます。こうした展開により、オーラルシアターは今後も多様な形で進化し続けると考えられます。



まとめ

オーラルシアターは、語りを通じて記憶と社会をつなぐ現代的演劇として、教育、福祉、地域文化など幅広い分野で注目されています。

フィクションでは描ききれない「声のリアリティ」は、観客の感情を深く揺さぶり、共感と理解を生み出します。今後も演劇が果たすべき「人の声を届ける」という使命の一端を、この形式が担っていくことでしょう。


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