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舞台・演劇におけるオブジェクトパフォーマンスとは?

美術の分野におけるオブジェクトパフォーマンス(おぶじぇくとぱふぉーまんす、Object Performance、Performance d’objet)は、舞台上で使用される物体や道具を単なる小道具としてではなく、「表現主体」として捉え、それらを中心に展開するパフォーマンスの手法を指します。演者の身体と言葉だけでなく、物体の存在感、質感、運動性そのものを用いてメッセージや感情を伝える点に特徴があります。

この用語は、パフォーマンスアートやコンテンポラリーシアターの文脈で登場し、特に20世紀後半以降の前衛的な舞台芸術において発展してきました。人形劇や舞踏、インスタレーションアートとの親和性が高く、視覚・触覚・聴覚を刺激する表現形式として多くの演出家や美術家に採用されています。

英語では「Object Performance」、フランス語では「Performance d’objet」や「Théâtre d’objets」などと呼ばれ、現代演劇や現代美術の領域を横断する概念として用いられています。美術と演劇の交差点に位置し、「見ること」「触れること」「操作すること」への観客の意識を拡張する表現です。



オブジェクトパフォーマンスの歴史とルーツ

オブジェクトパフォーマンスの起源は、20世紀初頭の前衛芸術にまで遡ることができます。特に、ダダイズムやロシア構成主義のアーティストたちは、物体を象徴や記号ではなく、自律的な存在として捉える表現を模索していました。

1930年代には、人形劇や影絵劇の表現が実験的に進化し、「モノが語る」舞台の可能性が探求されるようになります。特にフランスの現代人形劇(Théâtre d’objets)では、人形ではない日用品や廃材を用いたパフォーマンスが登場し、無生物が舞台上で生命を帯びるような演出が注目されました。

1980年代以降になると、インスタレーションアートやメディアアートの技法が舞台表現にも取り込まれ、オブジェクトの物理的性質(素材感、動き、音、反射など)を活かした作品が数多く生まれます。この時代の特徴は、物を演じる・操作することそのものが演劇であるという新しい視点の確立です。

日本においても、舞踏や暗黒舞踏の文脈で「物との対話」や「物が持つ記憶・痕跡」に着目した作品が多く上演されており、無言劇や実験演劇においてもオブジェクトパフォーマンスの思想が見られます。



オブジェクトパフォーマンスの特徴と技法

オブジェクトパフォーマンスの最大の特徴は、物体自体が「語る」存在として扱われることです。そのため、演者の身体と同様に、物の動き、配置、質感、さらには変化や破壊といった操作が、物語性や象徴性を帯びて観客に伝わります。

主な技法として、以下のような要素が挙げられます。

  • 物を演者のように操作する:日常的な道具やオブジェを擬人化し、意思や感情を与える演出。
  • オブジェクトの性質を生かした演出:金属、ガラス、紙、布など素材の違いを舞台効果として活用。
  • 物体の変容を見せる:組み立て・破壊・変形などのプロセスを舞台上で展開する。
  • 声や言葉の代替:人間の台詞の代わりに、音や振動、物の音を使って感情を表現。

これにより、観客は単に「ものを見ている」だけでなく、ものの背後にある意味や物語を読み取る能動的な鑑賞者として舞台に関与することになります。

また、演出家によっては、舞台上のオブジェクトと演者の関係性そのものを中心に構成し、「物によって動かされる人間」「物に支配される空間」といった逆転した視点を提示することもあります。



現代演劇における応用と意義

現代の舞台表現において、オブジェクトパフォーマンスは視覚的・感覚的な演出の重要な選択肢として確立されています。とくに以下のような文脈で用いられることが多いです。

  • 無言劇・フィジカルシアター:言葉に頼らず、物の配置や動きによって物語を展開する。
  • 環境演劇・インスタレーション:客席と舞台の境界が曖昧な空間で、物が観客との関係性を生み出す。
  • 社会批評やメタ演劇:日用品を用いて消費社会、記憶、アイデンティティを象徴的に描く。

また、教育や福祉の場面でも、オブジェクトパフォーマンスは有効です。知的障害者や高齢者との演劇ワークショップにおいて、物を使った表現は身体的負担が少なく、自由度が高いため、感情表現の手段として活用されることが多くあります。

近年では、デジタル技術と組み合わせた「インタラクティブ・オブジェクト」も登場しており、センサー付きの物体が観客の動きに反応して光ったり音を出したりする演出なども見られます。

このように、オブジェクトパフォーマンスは、単なる演出の一手法にとどまらず、舞台空間全体の意味生成を担う中核的な概念として進化を続けています。



まとめ

オブジェクトパフォーマンスとは、物体そのものをパフォーマンスの主体と捉え、その動きや性質を舞台上で表現に転化する演劇的手法です。

古代の儀式的な物語装置から、20世紀の実験芸術、そして現代のインタラクティブアートまで、多くの文脈を横断しながら展開されてきたこの表現形式は、「物」と「人間」との関係を問い直す契機にもなっています。

視覚文化が加速度的に進化する現代において、観客の感覚や想像力を多層的に刺激する手法として、今後も舞台芸術の中核を担う重要な技法であり続けることでしょう。


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