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舞台・演劇におけるオフステージとは?

美術の分野におけるオフステージ(おふすてーじ、Offstage、Hors-scène)は、舞台演劇やパフォーミングアーツの中で、観客の目に直接触れない舞台外の空間や、そこにおける出来事・演技・演出要素を指す概念です。これは主に演出上の効果や物語の広がりを演出するために使用され、劇中において“見えないが確かに存在する”状況や動作を想起させる重要な手法として活用されます。

英語では「Offstage」、仏語では「Hors-scène(オール・セーヌ)」と表記され、いずれも舞台上(onstage)に対比される言葉であり、物理的な意味と演出的な意味の両面を持っています。具体的には、舞台袖(ウィング)や舞台裏(バックステージ)での行動、さらには音響効果によって暗示される出来事(銃声、叫び声など)も含まれます。

この概念は演劇だけでなく、オペラ、バレエ、映画、テレビ演劇などにも広く用いられており、観客の想像力を刺激し、舞台空間の外側にまで物語の広がりを持たせる演出技術として不可欠な存在です。舞台美術、照明、音響、演出全体の構造に大きな影響を与える要素であり、演劇のリアリティと没入感を高める上で中心的な役割を果たします。

本稿では、オフステージの歴史的な起源、言語的な由来、そして現代における演劇的・技術的な活用事例を通して、この用語の深い意味と応用範囲を詳しく解説してまいります。



オフステージという概念の歴史と発展

オフステージという概念は、演劇の起源とも言われる古代ギリシャ演劇にまでさかのぼることができます。当時の劇場構造では、舞台後方にある建物(スケーネ)により舞台裏が存在し、神々の登場や殺人シーンといった過激な演出を観客に“直接見せずに”表現する方法がとられていました。

このような制約から生まれた表現技法が、むしろ観客の想像力を刺激し、劇のリアリティや神秘性を高める効果を持つと認識されるようになります。中世宗教劇やシェイクスピア劇、そして18世紀以降の写実主義演劇でも、見えない空間を想像させる演出は重要な要素とされてきました。

近現代では、演出家や劇作家によって積極的に「オフステージ」の使用が探求されています。たとえば、チェーホフの戯曲では重要な出来事が舞台上で起きず、観客は登場人物の会話や反応を通じてそれを把握する仕組みとなっており、これが心理的な深みと余白を生んでいます。

また、20世紀後半以降の実験演劇やポストドラマ演劇においても、物理的な舞台の境界を曖昧にする演出の中で、「オフステージ」の概念が改めて見直され、拡張されてきました。



オフステージの技法とその演出効果

オフステージの活用は、主に以下の3つの形態に分類できます:

  • 音による暗示:舞台外からの叫び声、爆発音、足音などで、見えない出来事を伝える。
  • 言葉による描写:登場人物のセリフを通じて、舞台の外で起きたことを観客に伝える。
  • 空間的制約の利用:舞台袖、幕の後ろ、ドアの向こうなどを使って、あえて“見せない”状況を作り出す。

これらの技法によって演出家は、物理的な制約を逆手に取り、舞台空間の外側に物語の奥行きを持たせることが可能となります。また、観客に「見えないものを想像させる」ことにより、舞台上の出来事以上に強い印象や感情を生む効果があります。

さらに、オフステージは俳優の演技にも関わります。オフステージで起きたことに対して登場人物がどう反応するかが、キャラクターの個性や感情の深さを表現する手段となるからです。

舞台芸術全体の中でも、照明や音響、美術のチームは「オフステージ」演出を支える重要な役割を担っています。例えば照明のフェードアウトと共に舞台外の効果音を重ねることで、場面転換や時間経過を観客に印象づける演出が可能です。



現代演劇におけるオフステージの応用と再定義

現代においては、「オフステージ」という言葉は単なる物理的空間の外側を指すだけでなく、演劇の枠を超えた領域への展開としても使われるようになっています。

たとえば:

  • 観客が劇場に入る前に受け取る事前情報やSNSでのキャラクター設定(プレショー演出)
  • アフタートーク、舞台裏映像、バックステージドキュメンタリーなどの拡張コンテンツ
  • 観客が見ない場所で同時進行する別視点の物語(サイトスペシフィック演劇)

これらもまた、「観客の視界から外れているが作品世界に影響を与えている」という意味で広義のオフステージと捉えることができます。

また、オンライン演劇の発展により、視聴者が選択する視点によって“見えない出来事”が生じる状況も増えており、インタラクティブなオフステージ表現が可能となりました。

このように、オフステージの概念は現代演劇において再定義されつつあり、物語構造や観客体験をより豊かにするための重要な要素として存在しています。



まとめ

オフステージとは、舞台の外側に存在する空間や出来事を指し、観客に直接見せないことによって演劇の奥行きと想像力を喚起する重要な概念です。

その歴史は古代演劇にまでさかのぼり、現代に至るまで多様な形で進化を続けています。演出技法としての活用だけでなく、観客体験を広げるメタ的手法としても注目されており、今後も演劇表現の中核をなすキーワードとして発展していくでしょう。


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