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舞台・演劇におけるオリエンタルパフォーマンスとは?

美術の分野におけるオリエンタルパフォーマンス(おりえんたるぱふぉーまんす、Oriental Performance、Performance orientale)とは、アジアや中東など、いわゆる「東洋」にルーツをもつ身体表現や演劇的要素を取り入れたパフォーミングアートの総称です。特定の演劇流派や様式を指すのではなく、演者の動き、衣装、音楽、舞台美術、語り口、物語構造などに「オリエンタル」な要素が色濃く反映されている上演形態を広く含みます。

「オリエンタル(Oriental)」という語は、もともと西洋から見た東方地域、特にアジアや中東を指す語であり、美術・文学・舞踊・演劇などの文脈で異文化的な様式を称揚または描写する際に使用されてきました。ただし、近年ではポストコロニアル理論の影響により、この言葉に含まれるステレオタイプや異文化の「他者化」に対する批判的視点も重要となっています。

オリエンタルパフォーマンスにおいては、例えば日本の能や歌舞伎、中国の京劇、インドのカタカリ舞踊、インドネシアの影絵芝居「ワヤン・クリ」などが代表的な要素として参照されることがあります。また、それらのスタイルを現代舞台芸術に再解釈し、新たな身体性と空間演出を生み出す創作活動もこの領域に含まれます。

本用語はグローバル演劇、ポストモダン演劇、ポストコロニアル演劇のいずれの文脈でも語られることがあり、文化的多様性の尊重と越境的な表現の融合という意味で、現代舞台芸術において重要な役割を果たしています。



オリエンタルパフォーマンスの歴史と概念の変遷

オリエンタルパフォーマンスという概念が登場したのは、19世紀末から20世紀初頭にかけてのヨーロッパにおいてです。当時、植民地主義とグローバル貿易の拡大によって東洋文化が西洋に紹介されるようになり、美術や音楽、演劇にもその影響が及びました。エキゾチズム(異国趣味)の一環として、日本や中国、インドの芸術が美的対象として西洋人の注目を集めたことが、この潮流の始まりです。

とくに舞台芸術の領域では、ヨーロッパの演出家たちがアジアの伝統演劇から着想を得て、自らの作品に取り入れ始めた時期でもあります。ロシアの演出家メイエルホリドや、フランスのアントナン・アルトー、日本の能楽に影響を受けたピーター・ブルックなどが代表例です。

その後、20世紀後半にはグローバル化の進展とともに、演劇作品自体が越境的な性格を持つようになります。文化の混淆や異文化の再解釈が主題となる中で、「オリエンタルパフォーマンス」という用語は、もはや一方向的な「輸入」や「模倣」ではなく、双方向的・対等的な文化交流の意味合いを含むようになってきました。

現代では、アジア系のアーティスト自身が自らの文化的バックグラウンドを創作の核に据えた作品を展開し、それが「オリエンタルパフォーマンス」として国際的な舞台で評価されることも増えています。



技術的・演出的特徴と代表的な形式

オリエンタルパフォーマンスには多様な形式が存在しますが、いくつかの共通する特徴があります。

  • 身体性の強調:西洋演劇に比べて、手足の動き、呼吸、視線など身体の細部に意味が込められる。
  • 象徴性の高い舞台装置・衣装:抽象的な空間を用い、色や形が物語の進行を視覚的に補強します。
  • 音楽・語りの統合:楽器演奏、歌唱、口上などが演技と一体となって進行する。
  • 時空間の操作:直線的な時間や写実的な空間を超えた表現が重視される。

たとえば、能楽では「間(ま)」と呼ばれる無言の時間が重要視され、中国の京劇では「身法」と呼ばれる身体操作が訓練されます。これらの技法が現代演劇の実験的な文脈において引用されることで、演技の根源的な力が問い直される機会となっているのです。

また、近年ではコンテンポラリーダンスやマルチメディア演劇においても、「オリエンタル」な要素をデジタル技術や現代的な社会問題と融合させた表現が多く見られます。こうした傾向は、伝統と革新のダイナミズムを体現するものとして注目されています。



現代における意義と課題

21世紀に入ってからのグローバル演劇において、文化的多様性は単なる演出の一要素ではなく、作品の主題そのものとなるケースが増加しています。オリエンタルパフォーマンスは、そのような文脈の中で、以下のような意義と課題を持っています。

意義:

  • 文化の可視化:マイノリティ文化を舞台上に取り上げることで、可視性と表現の機会を確保します。
  • アイデンティティの表現:個人または集団のルーツや文化的背景を通じて社会的・歴史的なメッセージを発信します。
  • 身体表現の多様化:西洋中心の演技論とは異なる身体の使い方や舞台構造を提示します。

課題:

  • ステレオタイプの再生産:東洋文化を装飾的・幻想的に扱う演出が、誤解や偏見を助長することがあります。
  • 文化の所有と表現の正当性:異文化を扱う際の「誰が、どの立場で語るか」が常に問われています。

したがって、現代の演劇において「オリエンタルパフォーマンス」を用いることは、単なる技術的演出の選択ではなく、倫理的・社会的な意識を伴う表現行為として認識されるべきでしょう。



まとめ

オリエンタルパフォーマンスとは、アジアや中東などの伝統的な演劇・身体表現を現代演劇の文脈に取り入れた総合的な舞台芸術表現を指します。

その技術的・文化的背景には深い歴史と豊かな多様性があり、演出家やパフォーマーにとって、表現の幅を広げるための貴重な資源であると同時に、文化的尊重と対話が必要不可欠な領域でもあります。

今後も、国際的な芸術交流や社会的課題に向き合う創作活動の中で、オリエンタルパフォーマンスはさらなる展開と意義を見出していくことが期待されます。


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