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舞台・演劇におけるオンカメラとは?

美術の分野におけるオンカメラ(おんかめら、On Camera、Sur caméra)は、舞台・演劇や映像制作において、カメラの撮影範囲内での演技や技術的動作を指す専門用語です。演技者の視点では、観客ではなく「カメラ」を意識して演技するという姿勢を意味し、主に映像作品に特化したパフォーマンスの訓練や実践を表します。

この用語は、従来の舞台演劇のように広い空間で観客に向けて演じる「オンステージ(On Stage)」に対して、カメラのフレーム内での演技を最適化する表現様式として使われています。テレビドラマ、映画、CM、さらには近年の配信型舞台作品でも活用されるようになりました。

仏語では「Sur caméra」と表現され、英語圏の俳優養成機関では「オンカメラ・アクティング(On Camera Acting)」という科目やワークショップが広く設けられています。これに対して「オフカメラ(Off Camera)」は、カメラに映らない場面や、演技の準備・裏方を指す用語となります。

オンカメラは、現代の演技訓練や舞台映像化の文脈で極めて重要なスキルであり、俳優やスタッフの双方にとって、技術的理解と演出的配慮が求められる表現手段の一つです。



オンカメラの起源と発展

「オンカメラ」という概念は、映画やテレビが芸術や娯楽の一分野として発展した20世紀初頭に誕生しました。サイレント映画の時代、俳優たちは舞台演劇のような誇張された動きを映像で再現していましたが、やがてカメラという“観客”の存在に最適化された演技が模索されるようになります。

1930年代のハリウッド黄金期には、クローズアップ技術の発達とともに、俳優に求められる表現も変化していきます。つまり、舞台上での身体全体による感情表現から、顔の表情や細かな目線、息遣いといった繊細な演技へと移行したのです。

この変化を象徴するのが、俳優訓練における「メソッド演技法」の普及です。スタニスラフスキー・システムを継承したリー・ストラスバーグらが推進したメソッドアクティングは、内面の真実をリアリスティックに演じる技法であり、カメラ前での演技と親和性が高いものでした。

このように、「オンカメラ」という技術的用語は単なる撮影範囲の指示にとどまらず、映像メディアに最適化された演技論・演出論としての体系を形成してきました。



舞台・演劇におけるオンカメラ演技の応用

近年、オンカメラという概念は舞台芸術の領域でも注目されるようになっています。これは、演劇の映像配信やアーカイブ化のニーズが高まり、劇場での上演をカメラ収録する場面が増加したことが背景にあります。

たとえば、「シネマ歌舞伎」や「ナショナル・シアター・ライブ」などのプロジェクトでは、観客席からの一方的な視点ではなく、カメラが舞台上に“入り込み”、俳優の演技に寄り添うような撮影が行われます。このような演出には、俳優が「カメラを意識する」ことが求められ、映像用の間(ま)や、目線、声のニュアンスなど、技術的な対応が不可欠となります。

舞台と映像の融合を図る現代演劇では、オンカメラのスキルは新たな必須項目となりつつあります。俳優養成機関やワークショップでは、以下のようなカリキュラムが設けられることもあります。

  • クローズアップ演技:顔の表情を中心とした細やかな感情表現の練習
  • 目線の管理:カメラレンズの向こうに観客がいると想定しながら、視線の方向や動きを制御
  • 録音マイクへの意識:声の届き方や強弱、呼吸の演出など
  • マルチカメラ対応:複数台のカメラを意識しながら、常に撮影されている前提で動く訓練

このような能力は、特にライブ配信や映像演出を導入した現代演劇、あるいはVR/ARなどのテクノロジー演劇でも重要となっており、俳優にとってステージとスクリーンを自在に行き来する技術が求められています。



オンカメラ技術の未来と課題

デジタル技術の進化により、オンカメラ演技の役割と可能性は今後さらに拡大することが予想されます。特に以下のような文脈において重要性を増しています。

  • 演劇のアーカイブ化と国際配信:映像作品としての完成度が求められ、舞台演出とカメラ演出の融合が必要とされる。
  • 俳優のマルチキャリア形成:舞台だけでなく、映像作品への出演機会が拡大。オンカメラ演技の技術がプロフェッショナル標準となる。
  • 没入型メディアへの対応:VR・メタバースにおける360度カメラの活用により、視点の定まらない観客とのインタラクションを演出する新しい表現が生まれる。

ただし一方で、舞台演技と映像演技の違いを混同しないよう、訓練と意識の切り替えが必要です。例えば、舞台では声や動きの誇張が重要ですが、カメラ前ではそれが不自然に映ることもあります。このバランスを理解し、演出家と連携しながら“どの空間に向けて演じているのか”を自覚することが重要です。



まとめ

オンカメラは、舞台・演劇における演技や演出をカメラ視点で捉えた表現技法であり、特に現代における映像化・配信演劇の中で欠かせないスキルです。

そのルーツは映画やテレビ演技にありますが、現在は演劇の文脈でも広く取り入れられており、俳優や演出家が映像メディアの特性を理解しながら、より豊かな作品表現を目指すうえで大きな役割を果たしています。今後もテクノロジーと演劇の融合が進む中で、オンカメラ技術の深化と普及が舞台芸術全体の可能性を広げていくことでしょう。


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