ビジプリ > 舞台・演劇用語辞典 > 【カーテンライン】

舞台・演劇におけるカーテンラインとは?

美術の分野におけるカーテンライン(かーてんらいん、Curtain Line、Ligne de rideau)は、舞台演劇や舞台美術において、緞帳(どんちょう)が設置されている想定の線、すなわち舞台前面の仮想的または実際的な境界線を意味する用語です。このラインは、舞台空間の設計、演出、照明、俳優の立ち位置などの計画において重要な基準点とされており、舞台構成の中でも中核的な役割を果たします。

「カーテンライン」は英語で “Curtain Line”、フランス語では “Ligne de rideau(リーニュ・ド・リドー)” と表記され、劇場における舞台と観客の境界、または演技が始まる起点として、世界中の舞台芸術で共通して用いられている表現です。

この用語が指すのは、緞帳が完全に閉じた状態で垂れ下がっている位置、つまり舞台の最前面の想定ラインです。このラインより手前は観客にとっては「舞台外」、奥は「舞台内」とされ、演出や舞台設営上の空間的な意識を分ける基準となります。演出家や美術家はこのラインを軸に大道具の設置や動線設計を行い、俳優やダンサーもこのラインを意識しながらパフォーマンスを行います。

さらに、劇中で「カーテンラインで演じる」という表現が用いられる場合、これは緞帳が閉じた状態の前、つまり舞台の最前部で演技や挨拶を行うことを意味します。たとえばプロローグやエピローグ、カーテンコールなどでの使用が多く、観客との距離が最も近くなる場所であるため、演技上でも心理的なインパクトが大きい位置です。

このように、カーテンラインは単なる物理的な境界線ではなく、演劇における空間設計・演出・観客との関係性に深く関わる、美術的・演技的概念でもあるのです。



カーテンラインの起源と歴史的変遷

カーテンラインという概念は、舞台に緞帳が常設されるようになった18〜19世紀のヨーロッパ演劇に端を発しています。従来、演劇は屋外や仮設舞台で行われることが多く、明確な「幕」という存在はありませんでした。

しかし、室内劇場が一般化するにつれて、演出の区切りや観客の注意を引く手段として緞帳(Curtain)が導入され、その緞帳が垂れ下がるラインが舞台構造の基準点として意識され始めました。これが「Curtain Line(カーテンライン)」という語の由来です。

このラインは舞台上のデザインや照明設計、音響設置の基準として図面に明記されるようになり、やがて劇場技術の標準化とともに世界中の劇場に共通の用語として定着しました。日本においては、明治時代の西洋演劇導入とともにこの概念も輸入され、大正期以降の新劇運動を経て広く使用されるようになります。

現在では、プロセニアムアーチ(額縁舞台)を持つ劇場においては不可欠な空間設計要素として、舞台図面や演出プランに必ず明記されるものとなっています。



カーテンラインの機能と演出上の役割

カーテンラインは、舞台美術や演出設計の中核となる指標です。このラインを基点に以下のような多岐にわたる機能を果たしています:

  • 舞台セットの設計・配置の基準
  • 俳優の立ち位置(ブロッキング)の起点
  • 照明・音響のプログラミング基準
  • 緞帳の上げ下げのタイミング・位置の判断

たとえば、舞台装置の前景がカーテンラインを超えると観客の視界を遮る恐れがあるため、演出上必要でない限り、このラインより手前には大きなセットが配置されることはほとんどありません。また、照明設計においても、カーテンラインより前を照らすライト(フットライトやボーダーライトなど)は、観客に直接見える部分として特別な調整が必要になります。

さらに、俳優にとってこのラインは舞台と客席の「心理的な境界」でもあります。演技の中でこのラインを越えて手前に出る場合、観客との距離感が近づき、より強い印象を与えることができます。逆に奥に引くことで、緊張感や疎外感を演出することが可能です。

また、「幕前芝居(まくぜんしばい)」と呼ばれる形式では、幕を開けずにカーテンラインの前で演技を行い、セットチェンジ中の時間を演出として活用する場合もあります。このような演出手法において、カーテンラインは時間と空間の演出装置として活躍します。



現代演劇におけるカーテンラインの再定義

現代演劇では、必ずしもプロセニアム形式の舞台が主流とは限らず、アリーナ型(四方囲み)スラストステージ(張り出し舞台)など、多様な舞台形式が用いられるようになっています。こうした中で、「カーテンライン」は物理的な緞帳の存在を前提としない、仮想的な演技境界線として再定義されつつあります。

たとえば、四方を客席に囲まれた舞台では、演技の「内」と「外」を意識するために、カーテンラインに相当する仮想線を演出家が設定することがあります。これは、観客との視線の交差点をコントロールするための重要な意図であり、舞台空間の構造と同時に観客との関係性を構築するための技術でもあります。

また、オンライン演劇や映像配信演劇が台頭した現代においては、画面のフレームや映像の切り替えが「カーテンライン」の機能を担っているといえます。映像演出の中で「画面の外」にあるものを想像させる演出もまた、カーテンライン的概念の延長線上にあるといえるでしょう。

このように、現代におけるカーテンラインは、物理的構造にとどまらず、演出上の境界意識として柔軟に応用されており、今後も多様な演劇様式に合わせて進化していくことが期待されます。



まとめ

カーテンラインは、舞台と観客の関係を構築し、演技・演出・美術・照明といったすべての舞台要素の設計基準として機能する、極めて重要な概念です。

その起源は舞台における緞帳の導入にさかのぼりますが、現代においては物理的な境界にとどまらず、心理的・構造的なラインとして、舞台芸術の進化とともに意味を広げています。

今後、演劇表現がますます多様化する中で、カーテンラインという概念もまた、従来の形式にとらわれない形で再解釈され、新たな演出の鍵となる可能性を秘めています。


▶舞台・演劇用語辞典TOPへ戻る



↑ページの上部へ戻る

ビジプリの印刷商品

ビジプリの関連サービス