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舞台・演劇におけるガイドラインとは?

美術の分野におけるガイドライン(がいどらいん、Guideline、Ligne directrice)は、舞台・演劇に関わるすべての関係者—演出家、俳優、スタッフ、観客—が共通の理解と行動指針を持つために策定される基準や方針のことを指します。これらは創作活動や舞台運営において、安全性・表現の自由・倫理性・法令遵守などを確保しつつ、円滑な制作や上演を実現するために用いられます。

近年では特に、ジェンダー平等、多様性の尊重、ハラスメント防止、舞台安全管理(装置、照明、感染症対策など)といった観点からのガイドライン整備が進み、演劇界においても重要な役割を果たしています。英語では “Guideline”、フランス語では “Ligne directrice” と呼ばれ、文化政策の一環として政府機関や劇場団体が提示するケースも多く見られます。

これらのガイドラインは、舞台芸術の自由で創造的な活動を妨げるものではなく、むしろ共創的で持続可能な表現環境を確保するための支柱として機能します。アーティスト自身が自律的に判断し、リスクを認識し、より豊かな作品を社会に届けるためのツールとして位置づけられるべき存在なのです。



ガイドラインの歴史と概念の背景

「ガイドライン(Guideline)」という言葉は、元来「案内線」「目安となる線」という意味を持ち、法律のように強制力を伴わないが、実際の行動を導くための規範的提案として理解されています。

演劇界におけるガイドラインの導入が進んだ背景には、以下のような社会的要因が挙げられます:

  • 2000年代以降の演劇業界のプロフェッショナル化
  • 2010年代以降の#MeToo運動に伴うハラスメント防止意識の高まり
  • COVID-19の流行による公衆衛生対応の明文化の必要性
  • 多様性・包摂性をめぐる社会的要請の増加

特に2020年以降、日本を含む各国で演劇団体・芸術文化機関が相次いで独自のガイドラインを制定しました。たとえば日本では、文化庁や日本劇作家協会、日本演出者協会、舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)などが、ハラスメント防止や制作環境改善に関する文書を公開しています。

このような動きは、アーティストの労働環境保全だけでなく、観客との信頼関係の構築にも貢献しており、演劇という共同体的表現の在り方を再定義する契機となっています。



演劇におけるガイドラインの構成と対象領域

舞台・演劇のガイドラインは、通常、以下のようなテーマをカバーしています:

  • 制作体制の整備:契約、報酬、スケジュール管理などの明文化
  • ハラスメント対策:パワハラ・セクハラ・モラハラの防止と対応フロー
  • 安全管理:舞台装置、照明、音響機器の使用における事故防止
  • 感染症予防:観客・出演者・スタッフを対象とした衛生管理
  • 表現と倫理のバランス:過激表現・差別表現に関する留意事項
  • 観客対応:チケット販売、クレーム対応、バリアフリー対応

これらは単なる「禁止事項」の列挙ではなく、舞台に関わる全ての人が安心して創作に取り組むための共通言語です。ガイドラインの実効性を高めるためには、ドキュメントを制作するだけでなく、説明会やワークショップを通じた継続的な対話と共有が不可欠です。

また、演出家やプロデューサーにとっては、作品制作の各段階でガイドラインに基づく判断を行い、現場の運営に反映させるリーダーシップが求められます。



国内外の事例と今後の課題

国際的にも、ガイドラインは演劇界における制度的整備の重要な柱となっています。以下にいくつかの注目すべき事例を紹介します。

  • イギリス:Equity(俳優組合)による「Respect for Performers」ガイドライン
  • アメリカ:Intimacy Directors International(IDI)による「インティマシー演出」の手引き
  • フランス:文化省による「Cahiers des charges artistiques et techniques(芸術技術仕様書)」

これらは、いずれも舞台制作におけるフェアネス(公平性)、セーフティ(安全性)、リスペクト(尊重)を実現するための指針であり、演劇活動の持続可能性と信頼性を支える基盤となっています。

一方で、日本における課題としては、ガイドラインの存在が十分に周知されていないこと、現場での実行力が乏しいこと、契約文化の不在などが挙げられます。演劇界はフリーランス中心の業界であるため、法的拘束力のないガイドラインをいかに自律的に活用するかが鍵となります。

近年では、ジェンダーの観点に配慮した台本開発やインティマシー・コーディネーター(親密シーンを監修する専門職)の導入など、欧米の先進的な取り組みも日本の現場に波及し始めており、今後の展開が注目されます。



まとめ

ガイドラインは、舞台・演劇という自由な表現の場において、創造性と安全性、倫理性を両立させるための重要な指針です。

単なるルールではなく、関係者全員が共通理解を持ち、信頼関係を築くための道しるべとして、今後もその整備と実践が求められていきます。舞台芸術の未来を豊かにするために、ガイドラインは欠かせない土台のひとつとなるでしょう。


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