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演劇におけるカウントインパフォーマンスとは?

美術の分野におけるカウントインパフォーマンス(かうんといんぱふぉーまんす、Count-in Performance、Performance de décompte)は、主に舞台・演劇において、上演や演技の開始直前におけるカウント(掛け声や指揮の合図)を意図的にパフォーマンスの一部として組み込む演出手法、またはその表現形態を指します。音楽やダンスの世界では馴染み深い「カウントイン」という言葉に、演劇的な表現要素を融合させた概念です。

通常、「カウントイン(count-in)」は音楽演奏の開始前にテンポを提示するための数字のカウントを意味します(例:ワン、ツー、スリー、フォー)。この手法を応用し、演劇においても演者やスタッフの呼吸を合わせるための合図や、舞台上の動き・台詞を導くリズムとして活用されるようになりました。とくに現代演劇やパフォーマンスアートでは、開始の「前触れ」としてのカウントをあえて表出させ、演出の一部とすることで観客との一体感やライブ性を演出します。

英語では 'Count-in Performance'、フランス語では “Performance avec décompte” と訳され、近年では身体表現を重視する舞台作品や、即興性の高い演出において採用されるケースが増加しています。演者がカウントを観客の前で可視化・可聴化することで、舞台と客席のあいだに新たな「始まりの演劇的瞬間」を創出する技術とも言えます。



カウントインパフォーマンスの歴史と語源

カウントインパフォーマンスの語源は、もともと音楽分野における「カウントイン(count-in)」にあります。これはバンド演奏や合唱においてテンポを合わせるための「ワン、ツー、スリー、フォー」といった音声合図を指すもので、ジャズやロック、クラシックでも広く用いられています。

この概念が舞台芸術の文脈に取り入れられたのは、20世紀後半以降の実験演劇やコンテンポラリーダンスの流れに起因します。特に1970年代以降、パフォーマンスアートが台頭する中で、即興性と偶発性を尊重する上演形式が広がり、それに伴い「カウント」自体が演出上のひとつのモチーフやリズムの構成要素として取り込まれるようになりました。

代表的な例としては、ピナ・バウシュのタンツテアターや、ロバート・ウィルソンの時間構成におけるミニマルな身体の動きとタイミングの一致などが挙げられます。これらの演出では、視覚・聴覚のリズムを明確化する手段として「カウントイン」が用いられる場面が確認されています。

演劇作品においては、舞台裏の「開始の合図」が意識的に観客の前に提示されるようになり、その瞬間こそが「生の演技」と「虚構」の境界線を乗り越える装置として認識されるようになったのです。



構造的な意義と演出技法

カウントインパフォーマンスは、演劇の中で主に以下のような役割を果たします。

  • 演技開始のリズムを提示する:出演者同士、あるいは音響・照明との連動性を高めるための時間的目印。
  • 観客への心理的な「入り口」を作る:舞台が始まることを、直感的かつ感覚的に知らせる演出要素。
  • 即興性の導入:即興演技やライブパフォーマンスでの「自由な開始」を強調する。
  • 舞台と観客の境界を曖昧にする:「始まり」が明確であることで、むしろ演技と現実の断絶を強調し、意識化させる。

また、台詞の直前に「ワン、ツー、スリー」と演者が小声で呟いたり、照明が規則的に点滅したりすることで、視覚・聴覚的な合図としてのカウントインが演出に深みを与えます。

演出家によってはこの要素を大胆に取り入れ、「全編がカウントインの連続で構成される」ようなリズム重視の実験的作品を創作するケースもあり、音楽性と演劇性の融合という新たな芸術領域を生み出しています。



現代演劇における活用と展望

現代演劇では、カウントインパフォーマンスは特に以下のような領域で活用されています。

  • 身体表現重視の舞台(コンテンポラリーダンス、マイム、ムーブメントシアターなど)
  • 即興演劇・インプロ:明確なきっかけが必要な中、カウントは構造の軸となります。
  • 子ども向け演劇やワークショップ型演劇:参加者の集中を引き出す手法としてのカウント。
  • マルチメディア演劇:音響・映像と人間の動作との同期を図るための合図。

演者にとっては、カウントインはタイミングをとるための指標であると同時に、集中と解放のきっかけとなる瞬間でもあります。観客にとっても、視覚化された「カウントイン」は非言語的な演劇文法として理解され、作品のスタイルや世界観を把握する助けとなります。

また近年では、AIやモーションキャプチャを用いたインタラクティブな演劇でも、演者と機械のタイミング調整として「カウント」が導入されており、今後はテクノロジーと結びついた新たなカウントイン演出が期待されています。



まとめ

カウントインパフォーマンスは、演技や舞台表現の開始前に設けられる「合図」や「リズムの提示」を、あえて可視化・演出化することで、作品にライブ性と構造的な緊張感をもたらす技法です。

そのルーツは音楽の世界にありますが、演劇的文脈に取り入れることで、観客と舞台の境界を乗り越える「始まりの演出」として重要な位置を占めています。現代の多様な舞台表現において、時間・身体・音の同期を視覚化する装置として、今後も幅広い演出に応用されていくことでしょう。

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