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舞台・演劇におけるかけもちとは?

美術の分野におけるかけもち(かけもち、Multiple Engagement、Engagement multiple)は、演劇や舞台芸術において一人の俳優、演出家、あるいはスタッフが、同時期に複数の作品やプロダクションに関わることを意味します。これは出演作品の数が重なる状態を指し、特に演劇業界においては日常的かつ実践的な慣行として根付いています。

英語では ""Multiple Engagement"" や ""Double Booking"" とも訳され、フランス語では “Cumul d'engagements” または “Pluriactivité” という表現が用いられます。演劇・舞台の文脈では、単に複数の仕事を持つという意味だけでなく、芸術的な選択や経済的必要性、キャリア戦略など、個人の生計や表現活動の在り方に深く関わる言葉として扱われています。

舞台関係者にとってのかけもちは、必ずしも否定的な意味を持つわけではありません。むしろ、限られた公演期間やリハーサル日程を調整しながら、複数のプロジェクトに携わることでキャリアを築き、表現の幅を広げる行為として尊重される側面もあります。ただし、スケジュールの過密化や作品への集中度の低下といった課題も内包しており、演出家やプロデューサーとの信頼関係が問われる場面も少なくありません。

現代の演劇・舞台業界において、特にフリーランスで活動する俳優やスタッフにとって、かけもちは経済的・芸術的な生存戦略のひとつとなっている現実もあります。公演期間が限られる中で、いかに持続可能な活動を行うか、その柔軟性と責任感のバランスが、現代舞台人の重要なスキルといえるでしょう。



かけもちの歴史と文化的背景

かけもちという概念は、古くは江戸時代の歌舞伎役者や狂言師の活動にまで遡ることができます。当時の役者たちは複数の芝居小屋に名前を持ち、状況に応じて出演の調整を行っていました。これらの習慣は、雇用の安定がない中でも生計を立てる工夫であり、芸の研鑽や評判を得るためにも重要な手段でした。

近代以降、西洋演劇の影響を受けた新劇や商業演劇の世界でも、フリーランス俳優の登場とともに「かけもち」は広く行われるようになりました。特に第二次世界大戦後の演劇ブームの時代には、多くの俳優が複数の劇団やテレビドラマ、映画などをまたぐ形で出演することが一般化し、それが現在まで続いています。

現代においては、特に小劇場やインディペンデントな演劇シーンにおいて、出演者・スタッフが一つの作品に専念するのではなく、並行して複数のプロジェクトに携わることがむしろ「プロフェッショナルとしての証」として受け入れられている場面もあります。



かけもちの実践とそのマネジメント

実際にかけもちを行う俳優やスタッフは、時間・エネルギー・集中力の管理能力が非常に重要になります。以下に代表的な課題と工夫を挙げます。

  • スケジュール調整: リハーサルや本番日程が重複しないよう、カレンダーを精密に管理する。
  • 情報の整理: それぞれの作品における役柄、演出方針、台詞などを混同しない工夫。
  • 体調管理: 過密スケジュールでもコンディションを維持するための休養や食事の工夫。
  • 責任分担の明確化: 主催者との契約内容を明確にし、緊急時の代替対応策も共有しておく。

とりわけ舞台芸術においては、リハーサル期間中に他の作品を抱えていることが、演出家との信頼関係に影響を与えることもあります。演出家側としては、出演者に一定以上の「集中」を求める傾向が強いため、情報の開示と合意形成が不可欠となります。

一方で、制作側も俳優やスタッフのキャリアと収入の安定性を理解し、柔軟な契約や稽古体制を敷くことで、持続可能な創作環境を築くことが求められています。



現代における意義と課題

今日の演劇業界では、特に小劇場演劇や地域演劇、若手アーティストの活動において、かけもちは芸術的活動を支える前提条件となっていると言っても過言ではありません。

例えば、ある俳優が1ヶ月間の本公演の傍ら、週末に別の朗読劇に出演し、平日は映像収録の仕事を行うといった働き方は珍しくありません。これは芸術的多様性を広げると同時に、経済的安定を図るための戦略でもあります。

ただし、過剰なかけもちは、疲労やクオリティの低下、そして事故やトラブルの要因にもなりかねません。また、出演者が本番直前に別作品の仕事で欠席するなど、全体進行に支障をきたすリスクも存在します。

そのため、演劇業界全体で、かけもちを前提とした制作体制や、適切なリスクマネジメント、サポート体制の整備が求められています。さらに、公演ごとの「拘束時間」の定義や、「かけもちに関するガイドライン」の策定など、制度的な議論も進みつつあります。



まとめ

かけもちは、現代の舞台・演劇において、表現者の柔軟な働き方や創造性の広がりを支える重要な実践です。

その背景には、演劇業界の経済構造や雇用形態の多様化があり、俳優やスタッフにとっては生活と表現を両立させるための現実的な選択肢でもあります。

今後は、より持続可能で創造性を保つための「かけもち文化」の健全な運用と、それを支える制度やコミュニケーションの在り方が問われていくことになるでしょう。個人の責任感と業界全体の理解が両輪となることで、豊かな舞台芸術が築かれていくのです。


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