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舞台・演劇におけるカバーキャストリハーサルとは?

舞台・演劇の分野におけるカバーキャストリハーサル(かばーきゃすとりはーさる、Cover Cast Rehearsal、Répétition des doublures)とは、舞台・演劇において主役や主要キャストの代役を務める俳優、いわゆる「カバーキャスト」や「アンダースタディ(Understudy)」が行うリハーサルのことを指します。これは本番中における不測の事態、例えば出演者の体調不良や突発的な降板などに備えて、代役となる俳優があらかじめ舞台上での動きや演技、タイミングを習得・確認するための重要なリハーサルです。

この種のリハーサルは特にプロフェッショナルな長期公演や大規模なプロダクションで実施されることが多く、出演者全体のスケジュールに組み込まれているケースもあります。通常、観客の前で披露されることはありませんが、近年ではプロモーションや記録、若手俳優の育成を目的として一部公開されることもあります。

カバーキャストリハーサルは、舞台の安全性や信頼性を保つ上で極めて重要な要素であり、またアンダースタディが主役級の演技力を身につける貴重な訓練の場ともなっています。演技だけでなく、照明や音響、舞台装置のタイミングに至るまで、本番と同等の環境下で緻密に再現されることが理想とされます。

また、美術的観点から見ると、このリハーサルは舞台美術や衣装、小道具などの調整にも関与し、主役と同様のビジュアルが成立するかどうかを検証する重要な機会となります。演劇はライブアートであるがゆえに、代役が完璧に舞台を引き継げる体制を整えることは、芸術的な完成度を保つ上でも非常に価値のある工程です。

このように、カバーキャストリハーサルは、見えないところで作品の完成度と安全性を支える、裏方としての重要な芸術的行為であると言えるでしょう。



カバーキャストリハーサルの起源と導入の背景

カバーキャストリハーサルという概念は、もともとはオペラやミュージカルといった大規模な舞台作品において、アンダースタディ制度とともに発展してきました。西洋演劇の伝統においては、主役の急な不在に対応できるよう、代役制度を前提とした演出管理が長く行われてきました。

英語圏では「Understudy Rehearsal」や「Cover Run」とも呼ばれ、19世紀末のブロードウェイやロンドンのウエストエンドにおける商業演劇で広く制度化されました。特に長期公演の多いミュージカルでは、キャストの疲労や病気、ケガなどによる欠演が想定されるため、代役による継続的な上演が可能な体制づくりが求められたのです。

この背景には、「舞台芸術を止めない」という理念があり、たとえ主演俳優が出られない状況でも、観客に対して高品質な舞台を提供し続ける体制の一環として、カバーキャストリハーサルが積極的に導入されるようになりました。

日本においても、劇団四季や宝塚歌劇団といった大規模な演劇カンパニーでは比較的早くからこの制度が導入されており、リハーサル専用日や稽古場での再現演習が定期的に行われています。近年では、より小規模な劇団やストレートプレイ(非ミュージカル)作品でもこの考え方が浸透しつつあり、カバーキャストリハーサルは徐々に一般化し始めています。



カバーキャストリハーサルの具体的なプロセス

カバーキャストリハーサルは、単なるセリフの確認や動きの確認にとどまらず、本番と同様の流れで舞台を再現することが求められる高度な演劇訓練の場です。以下に一般的なプロセスを示します。

1. シーンごとの部分稽古

まずは主要シーンや複雑な動きがある場面をピックアップし、代役となる俳優がそれぞれのポジションや動きを習得するためのリハーサルが行われます。これを「パートリハーサル」と呼ぶこともあります。

2. トップラン(全編通し稽古)

すべての代役キャストが通しで本番と同じ順序・構成で演じるリハーサル。演出家や演出助手が立ち合い、照明・音響・美術の調整も並行して行われます。特にテンポ感・呼吸感の調整が重視されます。

3. スタンバイ確認と緊急時対応の確認

実際に主役が急きょ出演できなくなった場合に備え、舞台転換・楽屋移動・衣装チェンジなど緊急時のオペレーションを確認します。これにより、本番時の混乱を未然に防ぎます。

4. 演出の確認とアップデート

演出家が必要に応じて、代役に対してオリジナルキャストとの差異に配慮した指導を行います。たとえば身長差、声質、演技の傾向に応じた演出の微調整が行われることもあります。

5. ビジュアルチェック

舞台美術や照明とのバランス、衣装のフィット感、全体のビジュアルイメージなどを確認します。特に主役の代役が舞台の印象を大きく左右するため、細部のチェックが重要です。

このような手順を踏むことで、観客に違和感を抱かせない完成度を追求していきます。



カバーキャストリハーサルの意義と現代における評価

舞台芸術において、ライブ性は最大の魅力であり、同時に最大のリスクでもあります。ゆえに、カバーキャストリハーサルは、そのリスクに対して備える芸術的かつ実務的な保険ともいえる存在です。

たとえば、2020年代のパンデミック下においては、感染対策としてキャストが隔離や休演を余儀なくされるケースが増加し、カバーキャストの重要性が一層注目されました。複数のキャストで主役を交代制にする「ダブルキャスト」や「トリプルキャスト」などの制度とともに、柔軟な上演体制の一環として不可欠な役割を担っています。

また、俳優の育成という観点でも、カバーキャストリハーサルは大きな意味を持ちます。次世代の主役候補が実践的な舞台経験を積む貴重な場となり、将来的なキャリア形成にもつながるのです。

近年ではSNSなどで「今日の公演はカバーキャストが主役を務めます」といったアナウンスが行われることも一般化しており、観客の理解も深まりつつあります。中には「代役回」を目当てに来場する観客も存在し、演劇の多様性や可能性を楽しむ文化の醸成にもつながっています。



まとめ

カバーキャストリハーサルは、舞台芸術におけるリスクマネジメントの一環であると同時に、俳優の成長と舞台作品の完成度を支える重要なリハーサル形式です。

本番の品質を保ち続けるために、代役がいつでも同等のパフォーマンスを発揮できるように準備することは、観客にとっての信頼にも直結します。こうした取り組みは、現代の多様化する上演環境において、より柔軟で持続可能な舞台運営を可能にするものであり、今後さらにその重要性は高まっていくことでしょう。


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