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舞台・演劇におけるカバードパフォーマンスとは?

美術や舞台芸術の分野におけるカバードパフォーマンス(かばーどぱふぉーまんす、Covered Performance、Performance couverte)は、特定の配慮を必要とする観客に向けて演出内容を調整した特別な上演形態を指します。特に視覚、聴覚、感覚過敏、発達障害などの特性を持つ観客が、快適かつ安心して舞台芸術を楽しめるように設計された公演であり、アクセシビリティとインクルーシブ(包摂性)を高めることを目的としています。

もともとは海外の舞台芸術環境において始まった取り組みで、英語圏では「Relaxed Performance(リラックスド・パフォーマンス)」や「Sensory Friendly Performance(感覚配慮型公演)」とも呼ばれ、フランス語では「Représentation adaptée」などの言い回しが使われています。これらの公演は、照明や音響の調整、演出の変更、入退場の自由化などを通じて、通常の公演では刺激が強すぎると感じる観客にも楽しめるよう工夫が施されています。

演出家や劇場スタッフ、さらには専門の福祉支援者が連携しながら行うこの試みは、舞台芸術の新しい可能性を開くものであり、観客一人ひとりのニーズに寄り添った鑑賞体験を提供することを目的としています。

現在では、子ども向け公演、高齢者向けの舞台、さらには自閉症スペクトラム障害(ASD)の方々に向けた舞台など、多様なニーズに応じたカバードパフォーマンスが世界中で広がっており、舞台芸術のアクセシビリティに対する社会的関心の高まりとともに、その重要性はますます増しています。



カバードパフォーマンスの歴史と背景

カバードパフォーマンスのルーツは、1990年代後半から2000年代初頭のイギリスにあります。障害を持つ人々や感覚過敏のある子どもたちが、従来の劇場空間に不安や不快感を抱えているという声を受けて、劇場側が自主的に取り組み始めたのが始まりです。

最初の実践例の一つとして知られるのは、ロンドンのナショナル・シアターやウエストエンドで行われた「Relaxed Performance」であり、これが後にアメリカやカナダ、フランス、オーストラリアなど各国へと波及していきました。

これらの公演では、音量を下げる、強い照明を控える、予測不能な演出(急な爆発音など)を調整するなどの変更が加えられ、事前にプログラムや場面の進行内容が共有される「ビジュアル・ストーリーボード」なども配布されます。

日本においても、2010年代以降、国際的な動向を受けて劇場や文化機関が積極的に導入を始めました。劇団四季のファミリーミュージカルや公共ホールでの子ども向け演劇、障害者週間の記念イベントなどでカバードパフォーマンスが行われるようになり、徐々にその存在が認知されつつあります。



カバードパフォーマンスの特徴と具体的な実践

カバードパフォーマンスには、以下のような特徴が見られます。

  • 1. 照明・音響の調整:急激な暗転や大きな音を避けることで、不安を感じやすい観客にも配慮。
  • 2. 入退場の自由化:途中での移動や退席がしやすいように客席構造や案内スタッフを工夫。
  • 3. 事前情報の提供:舞台の流れや会場の構造を説明した冊子(ビジュアルストーリーなど)を配布。
  • 4. スタッフのサポート体制:専門の支援員や福祉スタッフが常駐し、必要な支援を提供。
  • 5. 会場全体の雰囲気調整:観客全体が静粛さを強制されず、リラックスした雰囲気が許容される。

このような工夫によって、舞台芸術の「敷居の高さ」を下げることが可能になります。障害を持つ方や高齢者、小さな子どもを連れた家族などが、周囲に気を遣うことなく、自由に演劇を楽しむことができます。

また、通常の公演よりもチケットの価格設定が柔軟であったり、団体観賞の受け入れ体制が整っていたりすることも多く、公共性の高い文化活動としての側面も強く持ち合わせています。



社会的意義と今後の展望

現代社会において、アクセシビリティインクルージョン(包摂)は、文化芸術の分野においても重要なテーマとなっています。その中で、カバードパフォーマンスは、すべての人が舞台芸術に触れられる社会を実現するための鍵となる取り組みです。

特に以下のような観点から、その意義は広く認識されつつあります:

  • 1. 文化へのアクセスの保証:障害の有無に関わらず誰もが舞台を楽しめる社会の実現。
  • 2. 芸術と福祉の連携:専門家との協働により、安全で安心な鑑賞体験を創出。
  • 3. 教育的価値:子どもたちに多様性を尊重する感性を育む教育ツールとしての機能。
  • 4. 地域との連携:地域福祉や学校、NPOとの連携によるコミュニティ強化。

一方で、現場では課題もあります。演出内容の変更に伴う創造性とのバランス、スタッフの教育と訓練、予算確保といった点が今後の普及において重要な要素となるでしょう。

しかし、少子高齢化や多様性社会の進展に伴い、より柔軟で包容力のある舞台のあり方が求められる中で、カバードパフォーマンスの意義はますます高まっていくと考えられます。



まとめ

カバードパフォーマンスは、誰もが演劇を楽しめる社会を目指す上で不可欠な舞台芸術の新しいかたちです。

視覚・聴覚・精神的な特性を持つ観客に対する細やかな配慮を通じて、舞台芸術の本質である「共に感じ、共に考える」場がより広く開かれています。

今後も演出家や劇場、福祉の現場が手を取り合いながら、誰一人取り残さない芸術空間を創造することで、文化芸術の持つ力がより多くの人々へと届けられることが期待されます。


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