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舞台・演劇におけるきっかけとは?

美術の分野におけるきっかけ(きっかけ、Cue、Repère)は、舞台・演劇の演出・進行において、照明、音響、舞台転換、演者の動きなど、あるアクションを開始する合図やタイミングのことを指します。演技や演出、舞台技術のあらゆる要素が連動して展開される舞台芸術において、正確な「きっかけ」の共有は作品の完成度を大きく左右します。

英語では「Cue(キュー)」、フランス語では「Repère(ルペール)」と表記され、それぞれ「目印」や「合図」といった意味を持ちます。舞台上では、演者が次の動作を始めるタイミングであると同時に、裏方のスタッフが舞台装置や照明、音響などを操作するための信号としても機能します。

舞台の緻密な構成と流れを成立させるために、稽古段階から「きっかけ」は綿密に計画されます。台詞の中に仕込まれることもあれば、動作や効果音によって発動することもあります。

きっかけは、単なる「開始の合図」ではなく、演出の意図やドラマのテンポを観客に伝える重要な演劇的装置としての役割を担っているのです。



きっかけの歴史と語源

「きっかけ」という言葉は、もともと日常語として「何かを始める原因」や「動機づけ」を意味する日本語から派生しています。演劇においては、江戸時代の歌舞伎などで既に使われていたとされ、舞台上の音や動作を手がかりに役者が次の行動をとる仕組みが存在していました。

西洋演劇では、「Cue(キュー)」という言葉が広く使用されています。これはラテン語の「quando(いつ)」の頭文字「Q」が舞台台本上の合図として書かれていたことが語源とされています。舞台監督やプロンプターが、俳優や技術スタッフに「今です」と指示を出すための手段として、Cueは発展してきました。

日本でも明治期以降、西洋演劇の影響を受ける中で、「Cue」の概念が取り入れられましたが、すでにあった「きっかけ」という言葉にその役割が吸収され、今では日本独自の舞台用語として定着しています。

現在では演劇だけでなく、映画、テレビ、イベント演出、さらにはオペラやコンサートなどでも「きっかけ」は不可欠な演出要素として活用されています。



きっかけの種類と具体例

きっかけは、大きく分けて「演技的きっかけ」「技術的きっかけ」「総合的きっかけ」の3種類に分類されます。

  • 演技的きっかけ:役者の台詞や動作をトリガーにするもの。例:「あの人が来た!」の台詞で舞台袖から登場人物が出てくる。
  • 技術的きっかけ:音響、照明、装置転換などを操作する合図。例:照明プランにおける「きっかけNo.23」など。
  • 総合的きっかけ:複数の部門が同時に動作する合図。例:銃声と同時に照明がフラッシュし、俳優が倒れる。

また、台本や進行表には「Q(Cue)」として番号や記号で記載され、「Qシート」「きっかけ表」として管理されます。これによりスタッフ間での共有がスムーズになり、正確な舞台進行が可能となります。

例:舞台照明のきっかけ表(抜粋)

きっかけ番号トリガーアクション
Q1開演ベル場内暗転・幕前明かり点灯
Q5「あなた!」の台詞スポットライト1点灯
Q12銃声(効果音)全照明一瞬暗転

これらの記録は、舞台監督(ステージマネージャー)や演出部によって緻密に作成され、本番中はそれに沿って舞台が進行します。



現在の演劇制作におけるきっかけの重要性

現代の演劇制作において、「きっかけ」は演出の意図を正確に伝える装置として、演出家とスタッフの間で綿密に設計されています。

特に照明や音響の高度化により、タイミングがコンマ秒単位で求められる場面も珍しくなく、舞台の世界観や感情の盛り上げを支える根幹となっています。

また、演出家は俳優の動きや感情の流れを重視しながら、どの「きっかけ」で何を起こすかを綿密にプランニングし、視覚・聴覚の効果と俳優の演技が同期するように設計します。

一方で、予期せぬアクシデントにも柔軟に対応できるよう、演者やスタッフは「もしきっかけがこなかったらどうするか」といったバックアップも想定して稽古を重ねます。

さらに、子ども向け舞台や教育演劇など、観客参加型の演目では、観客の反応に応じて「即興的なきっかけ」が発生する場面もあります。こうした柔軟性も含め、「きっかけ」の管理能力は演劇現場における高度なスキルとして認識されています。



まとめ

きっかけとは、舞台上の演出や技術を動かすための合図であり、演劇という総合芸術の中で重要な役割を果たしています。

その役割は、演技の進行を助けるだけでなく、作品全体のテンポや感情の流れを形作るための演出の中核的要素として位置づけられています。

今後も技術の進化や多様な舞台表現の中で、「きっかけ」の重要性は一層高まると考えられます。演劇の「今」を支え、「未来」を設計するための鍵として、きっかけは常に舞台芸術の中心にあり続けるでしょう。


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