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舞台・演劇におけるキャラクタースタディシアターとは?

美術の分野におけるキャラクタースタディシアター(きゃらくたーすたでぃしあたー、Character Study Theater、Théâtre d'étude de personnage)は、舞台や演劇においてキャラクターの内面と背景を多角的に探究し、それを主軸にして創作を展開する実験的な演劇形式を指します。このスタイルでは、作品そのものよりも「人物研究」が中心テーマとなっており、俳優が一つの役柄に深く没入し、その思考、感情、身体性を細やかに分析・構築するプロセスが演劇表現の主軸となります。

キャラクター研究(キャラクタースタディ)という概念は、従来の演技訓練や俳優養成カリキュラムの中でも重要視されてきましたが、それを舞台そのものの構造原理として発展させたのがキャラクタースタディシアターです。この形式では、物語の起承転結や対立構造よりも、個々のキャラクターの心理的深化や、対話における微細な感情の揺れを舞台上に可視化することが目的とされます。

この演劇形式は、20世紀後半のポストドラマ演劇やドキュメンタリー演劇、さらにはメソッド演技の深化と密接な関係を持ち、現代においては俳優主導型の創作、演劇教育現場、あるいはパフォーマンスアートの一形態として注目されています。とりわけ役になりきるのではなく、役を「分析する過程そのもの」を舞台化するというアプローチが特徴であり、観客は俳優の試行錯誤や変容の過程をリアルタイムで体験することができます。

また、キャラクタースタディシアターは脚本の存在しない即興的な創作や、ワークショップ形式による共同制作とも相性が良く、集団創作の場におけるコミュニケーション手段としても活用されています。俳優が自らの身体や声を通して「人物を立ち上げる」作業は、現代演劇における創造的な問い直しであり、リアリズムと実験性の融合を体現しています。

このようにキャラクタースタディシアターは、舞台上でのキャラクター探求を第一義とする演劇的アプローチであり、俳優・演出家・観客の間に新たな対話の空間を生み出す創作実践であると言えます。



キャラクタースタディシアターの起源と思想的背景

キャラクタースタディシアターという演劇形式は、20世紀後半における俳優訓練の理論的発展と、ポストドラマ演劇の潮流が交差する中で生まれました。特に、コンスタンチン・スタニスラフスキーの「役作り」に関する理論や、リー・ストラスバーグのメソッド演技、ヨーゼフ・チャイキンやピーター・ブルックの実験的演出など、個々のキャラクターに対する深い洞察が重視された演劇思想の系譜を受け継いでいます。

これまでの演劇では、台本に基づいたストーリーテリングが中心であり、キャラクターは物語の中で機能的に扱われることが一般的でした。しかし1970年代以降、物語の枠組みに依存せず、登場人物の存在そのものや、演じるプロセス自体を可視化する演劇が登場します。その中で、キャラクター研究を舞台の主題とするスタイルが徐々に確立され、1990年代にはヨーロッパやアメリカで""Character Study Theater""として形式化されていきました。

この演劇はしばしば即興的であり、脚本よりも「役との対話」に重きを置きます。演者がひとつの役について何十時間も語り、動き、沈黙することで、そのキャラクターの核に近づいていくというプロセスそのものが舞台の中心となります。つまり、舞台とは演技の「完成形」を見せるのではなく、俳優が人物を構築していく過程を共有する場として再定義されるのです。



演出と創作における技術とプロセス

キャラクタースタディシアターにおいては、演出家の役割も従来の「全体を統括する存在」から、「俳優のキャラクター探索を支える伴走者」へと変化します。リハーサルでは脚本ではなく、「人物台帳」や「履歴書」など、役の詳細な背景を作成する作業から始まり、身体的エチュード、即興対話、内面モノローグなどの手法を用いてキャラクター像を構築していきます。

このプロセスでは、俳優自身がキャラクターの過去、価値観、トラウマ、願望といった要素を独自に発見し、それらを演技に反映させることが求められます。そのため、台詞や動きは固定されず、稽古のたびに変化し、役と俳優の間に生まれる化学反応こそが上演の核心となるのです。

また、観客との関係性も変容します。キャラクターの変化や進化をあえて舞台上で露出させることで、観客は完成された虚構を見るのではなく、「生まれつつあるキャラクターの存在」に立ち会うことになります。この構造は、舞台を一つの研究室、あるいは俳優と観客の共創の場とする発想と直結しており、演劇をより開かれた創造空間として再定義しています。



現代演劇における意義と教育的応用

キャラクタースタディシアターは、現代の演劇教育や俳優訓練の現場においても高く評価されており、多くの演劇学校や大学の演技クラスでは、キャラクター研究に特化した課題が導入されています。これは単に演技力の向上にとどまらず、自己認識の深化や身体表現の自由化にも繋がるトレーニングであり、俳優にとっての自己探求の手段ともなり得ます。

さらにこの形式は、社会的テーマや個人的な物語を取り入れやすいという特性も持ち、ドキュメンタリー演劇や社会的少数者をテーマとした作品の構築にも適しています。例えば、移民の体験、ジェンダーアイデンティティ、歴史的事件を背景とした人物像など、リアリティを持つ個人のストーリーを多面的に掘り下げることで、舞台芸術と社会の接点を広げています。

また、映像メディアやVR技術との融合も進んでおり、俳優が創出したキャラクターをデジタル環境に移行させるプロジェクトも存在します。これにより、観客がより多様な視点からキャラクターの構造や心理を体感できるようになり、キャラクタースタディの意義は舞台を超えて拡張されています。



まとめ

キャラクタースタディシアターは、キャラクターを多角的に探求するプロセスを舞台表現の中心に据えた演劇形式であり、俳優の創造力と観客の想像力が交差する独自の空間を生み出します。

その起源は演技理論やポストドラマ演劇に遡り、現代においては教育、社会問題、メディア表現といった多分野と結びつきながら進化を続けています。物語の消費からキャラクターの生成へという価値転換を体現するこのスタイルは、今後の舞台芸術における新たな指針となる可能性を秘めています。


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