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舞台・演劇におけるキューコールとは?

美術の分野におけるキューコール(きゅーこーる、Cue Call、Appel de repère)は、舞台・演劇の上演において、照明・音響・転換・幕の操作などのタイミングを合図するために使われる専門用語です。主に舞台監督や舞台監督補佐が発する指示であり、舞台上の演技やセリフ、演出の進行に合わせて、舞台裏のスタッフがスムーズに作業を行えるようにするための重要なコミュニケーション手段です。

「キュー(cue)」は英語で「合図」や「きっかけ」を意味し、「コール(call)」は「呼びかける」「指示を出す」という意味です。つまり、舞台進行における合図の呼び出しというのが、この用語の本質となります。演者のセリフや動作のタイミングに合わせて、舞台裏のスタッフが準備した演出を的確に作動させるために必要不可欠な工程です。

具体的には、照明の変化(明転・暗転)、音響効果の再生、舞台装置の転換、カーテンの上げ下げ、さらにはプロジェクションマッピングや特殊効果など、さまざまな技術演出が、キューコールによって一糸乱れず動き出す仕組みとなっています。

この用語は、美術・舞台芸術の文脈において、演出の完成度を大きく左右する裏方のスキルの一環とされており、その正確さとタイミング、そしてチーム内での統一的な理解が求められます。

また、キューコールは上演のリハーサル段階から何度も確認・調整が重ねられ、最終的には「キューシート」と呼ばれる指示書にまとめられます。これにより、上演中に想定されるすべての合図が整理され、演出の一貫性と安全性が確保されます。

近年では、デジタル技術の導入により自動化されたシステムも普及してきていますが、最終的な合図や判断を下すのは人間であり、キューコールは依然として舞台演出の根幹を支える重要な要素とされています。



キューコールの歴史と語源

キューコールという用語は、英語の「cue」(合図)と「call」(呼びかけ)を組み合わせた演劇用語として、20世紀初頭の欧米の舞台芸術の現場で広く使われるようになりました。

語源としての「cue」はラテン語の「quando」(=「いつ」)の略であり、演劇におけるセリフや動作、舞台効果の「開始のタイミング」を意味します。シェイクスピア劇やオペラの初期上演記録などでも、手書きで cue と記された部分が存在し、それが舞台効果の合図であったことが確認されています。

19世紀後半から20世紀にかけて、照明技術の進化や、演劇の総合芸術としての発展により、舞台裏の技術スタッフによる連携が強く求められるようになりました。この頃から、舞台監督(ステージマネージャー)が各部署にタイミングを指示する「キューコール」の重要性が高まっていきます。

日本においては、戦後の演劇文化の再構築期に欧米の演出法が導入される中で、「キューコール」という用語も翻訳語ではなくカタカナ語として浸透しました。現在では、プロの舞台現場においては必ずと言っていいほど使用される標準的な用語となっています。



キューコールの種類と運用方法

キューコールには、いくつかの主要なタイプが存在し、現場によって使い分けられています。

1. 事前キュー(スタンバイコール): 「○番、スタンバイ」などのように、これから作動させる準備を指示するコールです。技術スタッフはこの合図を受けて、指示された効果の準備状態を確認し、スタンバイ体制に入ります。

2. 実行キュー(ゴーコール): 「○番、ゴー!」という明確な実行の合図です。タイミングが非常に重要であり、演者の動きや音に合わせて、ほんの一瞬のズレも許されません。実際の操作がこのコールによって行われます。

3. 緊急対応コール: 予期せぬトラブルや機材不調が発生した場合には、舞台監督が即時の対応を求める特別なコールを行うことがあります。こうしたケースでは冷静な判断力とチームの連携が不可欠です。

キューコールは通常、無線インカムを通じて行われ、すべての部署に一斉に伝達されます。大規模な舞台では、サブ舞台監督が各担当に中継しながら指示を出すこともあります。

また、キューコールの基準となる「キューシート」は、舞台台本に書き込まれた合図情報をもとに作成され、上演前に何度もリハーサルで検証されます。これにより、複雑な舞台進行も確実に、かつ安全に運営されることが可能になります。

音響や照明、装置チームが互いのキューに合わせて動く様子は、まさに舞台という総合芸術の背後にある精密な機構の象徴とも言えます。



現代におけるキューコールの意義と展望

現代の舞台において、キューコールは依然として極めて重要な役割を果たしています。たとえ自動制御システムが導入されていても、「人間の判断による指示」が上演の成功を左右するため、舞台監督の経験や感性が欠かせません。

特にライブ性が高い演劇やパフォーマンスでは、演者のちょっとした間合いやテンポに合わせて、リアルタイムにコールを調整する必要があります。これにより、舞台全体の「呼吸」が揃い、観客の感情も自然と物語に引き込まれていきます。

また、国際的な舞台公演や多言語の作品などでは、コールも英語やフランス語で統一されることがあり、舞台スタッフの言語力や国際対応力が求められることも増えています。

近年では、AR・VR技術、プロジェクションマッピング、インタラクティブ演出など、舞台技術が急速に進化していますが、それに呼応する形でキューコールの複雑性や精度要求も高まっています。将来的にはAIを活用したキュー管理システムも登場するかもしれませんが、観客と生で向き合う舞台の本質において、人間によるコールの「間」や「勘」は今後も不可欠な要素であり続けるでしょう。

このように、キューコールは舞台芸術を舞台芸術たらしめる背後の調律者として、表には出ないながらも演出の中核を担う存在です。



まとめ

キューコールは、舞台芸術における照明・音響・装置などの演出要素を精密に制御し、演者の動きと連動させるための指示・合図のことを指します。

その歴史は古く、現在ではテクノロジーの進化とともに複雑化しつつも、人間の判断力と連携が最も求められる舞台裏の要となっています。舞台の進行を滞りなく、美しく、そして安全に成立させるために、キューコールはなくてはならない技術であり、今後もその重要性は変わらないでしょう。


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