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舞台・演劇におけるキューランプとは?

美術の分野におけるキューランプ(きゅーらんぷ、Cue Lamp、Lampe de repère)は、舞台・演劇において照明や音響、舞台装置などのきっかけ(キュー)を伝えるために使用される小型の電灯装置のことを指します。特に、インカム(無線通信)を用いることが難しい場所や、視覚的な合図が必要な環境において使用されるもので、舞台裏のスタッフや出演者に「開始の合図」や「準備指示」を明確に伝えるための手段として長年にわたり用いられてきました。

この装置は、舞台監督(ステージマネージャー)や照明・音響担当者などが操作し、色の変化や点滅などの視覚的信号を送ることで、演者やスタッフに対して次のアクションを示します。点灯・消灯のタイミングによって合図の意味が異なる場合があり、たとえば「点灯でスタンバイ」「消灯で実行」など、事前に取り決められたルールに従って運用されます。

特に暗転中の舞台上や袖幕の中など、視界が制限された環境下で非常に有効な合図手段であり、舞台演出において精密なタイミングを要する演出やオペレーションには欠かせない存在となっています。

また、キューランプはその設計がシンプルであることから、コンセント一つで設置可能な簡易型から、コントロール卓と連動する複雑なシステム型まで、多様な形式が存在します。加えて、現代ではLEDやワイヤレス技術の進化により、より柔軟で視認性に優れた製品も開発されています。

このように、視覚による合図手段として舞台芸術の裏方を支える重要な機器であるキューランプは、テクノロジーの発展とともに進化しながら、今もなお現場で活用され続けています。



キューランプの歴史と語源

キューランプという言葉は、英語の「cue(合図、きっかけ)」と「lamp(ランプ、灯り)」を組み合わせた造語であり、そのまま「合図用の灯り」という意味を持ちます。

舞台演出の現場では、19世紀末から20世紀初頭にかけて、電気照明の普及に伴い、さまざまな舞台装置が導入されるようになりました。この中で、暗転時や視界が制限された舞台袖、装置裏でのスタッフ間の連携手段として、電球による点灯・消灯による合図手段が考案され、それがキューランプの始まりとされています。

当初は単なる電球にスイッチを接続した簡素な装置でしたが、やがて信号線を通じて複数箇所に同時送信できる構造が開発され、演出のタイミング制御のための専用機器としての地位を確立していきました。

特にオペラや大型演劇、回り舞台など、演出内容が複雑かつ大規模になるにつれ、キューランプの存在は不可欠なものとなり、現代の舞台でも安全性や演出の精密さを担保するための基本的な道具として利用され続けています。

なお、フランス語では「Lampe de repère(ランプ・ドゥ・ルペール)」と呼ばれ、「repère」は「マーク」「目印」を意味し、演出における合図の印としての意味が込められています。



キューランプの構造と運用方法

キューランプの基本構造は非常にシンプルで、光源(多くはLEDまたは白熱灯)と電源、スイッチ、配線によって構成されています。近年では制御信号を送信できるコントロールユニットや、無線機能を備えた機器も増えています。

舞台現場においては、以下のような使用パターンが一般的です。

  • 1. 点灯=スタンバイ
    合図を待機していることを示す状態で、これから行動を開始するタイミングが近いことを知らせます。
  • 2. 消灯=ゴー
    実行のタイミング、つまりキューが発動されたことを示します。消灯と同時に動き出す必要があるため、特に注意深く観察されています。
  • 3. 点滅=警告や特殊指示
    特殊なアクションや緊急の合図として、明滅する形式が使われる場合があります。これは現場ごとにルールが異なるため、事前の取り決めが重要です。

設置場所としては、舞台袖、舞台奥、舞台下手・上手、奈落、装置操作室、サウンドブースなど、舞台のあらゆる裏方ポジションに設置され、関係スタッフが各自の持ち場でタイミングを把握できるようになっています。

また、上演中だけでなく、リハーサル時にも多用され、舞台転換の確認、タイミング練習、スタッフの位置取りなど、多くの作業において合図機器として活躍しています。

さらに、バレエやミュージカルなど音楽性の高い作品においては、指揮者の合図を代替・補助する目的でも用いられ、音楽と舞台効果のタイミングの一体化に貢献しています。



キューランプの現代的応用と展望

現在、キューランプは、より進化した形でさまざまな舞台現場に適応しています。従来の有線型から、無線式・デジタル制御型へと移行が進んでおり、舞台装置全体の省配線化と安全性の向上に貢献しています。

最新のキューランプには、以下のような機能が搭載されているものもあります。

  • ・遠隔操作システム:PCやタブレットから複数のランプを同時制御可能。
  • ・カスタムカラー設定:状況に応じて赤・青・緑など色で指示内容を分けることが可能。
  • ・音と光の連動:視覚と聴覚の合図を同時に提示し、より確実な伝達を実現。

さらに、障害者の出演者やスタッフが関わる公演においては、視覚に加えて振動によるフィードバック機能や、音声認識と組み合わせたスマートシステムなど、アクセシビリティ向上に向けた開発も進んでいます。

舞台演出においてキューの正確さは作品全体の完成度に直結します。そのため、今後もキューランプはテクノロジーとの融合を図りながら、演出の緻密化と舞台安全の両立に貢献し続けることでしょう。

また、演劇教育の現場では、キューランプの操作を通じて舞台進行の基本を学ぶ機会が設けられており、将来の演出家や舞台監督にとっての基礎技術としても重要な位置を占めています。



まとめ

キューランプは、舞台・演劇において演出のタイミングを正確に伝えるための視覚的な合図装置であり、現代の演出現場に欠かせない重要なツールです。

その歴史は電気照明の発展とともに始まり、現在ではデジタル化やワイヤレス化により、より精密で多機能な形へと進化しています。演出の完成度と安全性の両立を支えるこの技術は、舞台芸術の未来においても中心的な役割を担い続けることでしょう。


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