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舞台・演劇におけるクエストパフォーマンスとは?

美術の分野におけるクエストパフォーマンス(くえすとぱふぉーまんす、Quest Performance、Performance de quête)は、舞台・演劇において、登場人物あるいは観客が「目的地」や「答え」を求めて能動的に関与しながら進行する演出形式、またはその構造的特徴を持つパフォーマンス全般を指します。

この用語は、「クエスト(Quest)」=「探求、冒険」、「パフォーマンス(Performance)」=「上演、演技、表現活動」の2語から成り立ち、伝統的な舞台の枠組みにとらわれず、参加型・体験型・物語追跡型の演劇形式として注目されています。

一般的に、クエストパフォーマンスでは、主人公または観客が「何かを探し求める」旅に出る構成が中心となり、物語の進行は一方向的な観賞ではなく、選択や行動を伴う体験によって形成されます。これにより、演劇空間がゲーム的構造や哲学的探求の場として展開されることが多くなります。

具体的な形式としては、舞台内で「探索」や「選択」をテーマとした演技構造、または観客が劇中の登場人物と同様に空間を移動しながら物語を追体験するウォークスルー型演劇、あるいはARG(代替現実ゲーム)や没入型演劇といったインタラクティブな仕掛けが取り入れられることが一般的です。

フランス語では「Performance de quête(ペルフォルマンス・ドゥ・ケット)」と表記され、特に哲学的または心理的要素を強く持つ舞台作品で用いられています。

このように、クエストパフォーマンスは目的を持った探索=「旅」としての演劇構造を基盤にしながら、観客の主体性と参加意識を促し、従来の演劇体験に新たな意味と深みを与える現代的な演出形式です。



クエストパフォーマンスの起源と構造的背景

クエストパフォーマンスという概念は、比較的新しい用語ではあるものの、その演劇的根源は古代神話や中世の叙事詩、さらにはロールプレイングゲーム(RPG)の構造にまで遡ることができます。

古典文学における英雄の冒険譚、例えば『オデュッセイア』や『アーサー王物語』などに登場する「聖杯探索」や「旅の試練」は、演劇においても構造的なモデルとなり、主人公が困難や選択を経て目的地に至るという物語的骨格が作られてきました。

このような「旅」と「目的」を組み込んだ演劇構造は、20世紀以降の実験演劇や環境演劇の中で、空間移動や観客参加の手法と結びつき、従来の座席で観る演劇から「体験しながら進行する物語」へと展開していきます。

特に1980年代以降、欧米のパフォーミングアーツ界では、「プロセス中心型」の演劇が増加し、演技の完了ではなく探求の過程そのものが芸術性を持つという考え方が定着しました。この文脈において、観客もまた「探索者=クエスター」として舞台空間を能動的に歩く構造が生まれ、それが後のクエストパフォーマンスへと結実していきました。

また、ゲームデザインの理論や物語構造における「ノンリニア(非直線的)構造」も演劇に応用されるようになり、プレイヤー的視点を取り入れた舞台体験としてクエストパフォーマンスは多様な形式へと進化しています。



クエストパフォーマンスの特徴と演出手法

クエストパフォーマンスは、従来の演劇とは異なる構造的特徴を多数持っています。以下はその代表的な要素です。

  • 探索性(Exploratory):物語が固定された筋書きではなく、観客や演者の行動によって変化する。
  • 参加性(Participatory):観客が物語の中に「入り込む」体験が設計されており、登場人物として扱われることもある。
  • 選択性(Choice-Driven):進行中の選択によって展開や結末が変化する、マルチエンディング型の演劇体験。
  • 空間性(Spatial Narrative):舞台が単一空間ではなく、移動可能な複数の「場」で構成されることが多い。

演出手法としては、以下のような形式が用いられます。

  • ウォークスルー型:観客が舞台空間内を自由に歩き回る形式。各場所で異なる物語片やキャラクターに遭遇する。
  • インタラクティブ型:観客の行動や選択に応じて演者の動きやセリフが変化する仕組み。
  • ARG(代替現実ゲーム)連携型:リアル空間とネット空間を連動させ、現実と演劇の境界を曖昧にする形式。

このように、クエストパフォーマンスでは観客が物語の受け手であると同時に創造的主体でもあり、台本に従った演技というより「即興的反応」と「状況の構築」によって舞台が進行するという点が特徴です。

加えて、教育的・哲学的な問いを組み込むことによって、「自己とは誰か」「真実とは何か」など、自己探求や社会的考察を促す舞台としての機能も持っています。



クエストパフォーマンスの応用と今後の展望

クエストパフォーマンスは、現代社会における「体験志向」や「没入型コンテンツ」への関心と非常に親和性が高く、以下のような分野でも積極的に導入されています。

  • 教育分野:課題解決型学習(PBL)や演劇教育の一環として、体験を通じて思考するプロセスに応用。
  • 観光・地域活性化:地域の歴史や文化を「物語」として体験できる観光型パフォーマンス。
  • VR・メタバース演劇:仮想空間での「探索型ドラマ」としての展開。観客がアバターで参加可能。

一方で、演出上の課題としては以下の点が挙げられます。

  • 構成管理の複雑化:選択によって物語が分岐するため、演出家・脚本家の設計力が問われる。
  • 俳優の即興力:予期しない観客の行動に対して即座に対応する演技力が必要。
  • 技術コストの高さ:VRや映像、センサーなどを活用する場合、制作費が高騰する傾向。

今後は、AIナビゲーターやセンサーデバイスとの連動により、個々の観客体験をリアルタイムで最適化する「パーソナライズ型クエストパフォーマンス」への展開も想定されています。

また、脱構築的演出との組み合わせにより、単なる冒険譚ではなく、「冒険するとはどういうことか」というメタ的問いかけを持つ舞台も増えており、芸術表現と哲学的探求の融合が一層深まると見られています。



まとめ

クエストパフォーマンスは、演劇において観客や登場人物が「目的」や「真理」を求めて能動的に動き出す構造を持つ、現代的かつ体験的な演出形式です。

探索・選択・参加を軸とするこの手法は、舞台芸術をより「個人的な体験」へと転換し、同時に社会的・哲学的思索の場としても機能します。技術の進化とともにその可能性はさらに広がりを見せており、未来の舞台芸術の重要な柱となることは間違いないでしょう。


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