ビジプリ > 舞台・演劇用語辞典 > 【クラウドシアター】

舞台・演劇におけるクラウドシアターとは?

美術の分野におけるクラウドシアター(くらうどしあたー、Cloud Theater、Théâtre en nuage(仏))とは、クラウド技術を活用してインターネット上で展開される演劇公演の形式、またはそのためのプラットフォームを指します。これは物理的な劇場空間に依存せず、インターネットを介して俳優と観客が「仮想空間」でつながるという点で、従来の演劇と一線を画す新たな表現形態です。

この言葉は、クラウドコンピューティング(cloud computing)とシアター(theater)を組み合わせた造語であり、舞台美術・照明・音響・演出のすべてがオンライン上で統合・管理される環境を意味します。具体的には、Zoomや専用配信アプリを活用したライブ公演、アバターやCG空間でのパフォーマンス、あるいは録画とインタラクティブな要素を併用したハイブリッド作品など、さまざまなデジタル演劇の実践がこの概念のもとに行われています。

クラウドシアターは、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとして世界中で急速に広がった概念であり、特にロックダウン下において、劇場に足を運べない観客や稽古・上演が困難な制作現場にとっての「代替手段」としてだけでなく、「可能性の拡張」として受け入れられつつあります。

その利点は、地理的・身体的な制限を超えて誰もが参加・観劇できる点にあり、障害を持つ人や海外在住の俳優、観客層に向けた包摂的なアートの展開にも活用されていることから、演劇と社会の関係性を見直すきっかけにもなっています。



クラウドシアターの誕生と発展の背景

クラウドシアターという用語が本格的に使われるようになったのは、2020年以降のパンデミック期においてでした。それ以前にも、舞台映像のストリーミングや、バーチャルリアリティ(VR)を用いた試みは存在していましたが、主に補助的な要素にとどまり、「演劇=生の空間体験」という前提が揺らぐことはありませんでした。

しかし、新型コロナウイルスの影響により世界中の劇場が閉鎖され、観客を迎えられない状況が続いたことから、クラウドを基盤とした演劇制作と発表の手法が必要不可欠なものとして浮上しました。演出家や劇団、大学の演劇教育機関がいち早く対応し、Zoom演劇、YouTubeライブ、SNSによるインタラクティブ公演など、多様なスタイルが生まれました。

中国の国家大劇院が主催した「Cloud Theater」や、アメリカの「National Theatre at Home」、日本でも劇団ノーミーツによるバーチャル演劇など、クラウドシアターの枠組みで開催される作品は、パンデミックを越えて新しい観劇スタイルとして根付き始めています。

また、演劇の教育分野においても、リモート稽古やオンライン演出のノウハウが蓄積され、地域を超えた共同制作や国際的な創作ワークショップが可能となるなど、新たな創作環境としての意義も評価されています。



クラウドシアターの技術と実践の特徴

クラウドシアターは、次のような技術的・実践的な特徴を持っています。

  • ① リアルタイム性と非同期性の両立:ライブ配信による「生の演技」と、録画編集による表現の拡張が共存。
  • ② テクノロジーとの融合:Zoom・OBS・Unity・VRChat・モーショントラッキングなど、演劇外の技術を積極的に導入。
  • ③ 舞台装置の仮想化:3DCGやアバターを使った空間演出により、現実では不可能な世界観を構築可能。
  • ④ 観客との新しい関係:チャット、リアクション、投票、分岐シナリオなど、インタラクティブ性を活用。

これにより、演劇の定義そのものが再構築される可能性が出てきています。もはや「舞台上に肉体が存在すること」や「同じ空間で同じ空気を吸うこと」が絶対条件ではなくなりつつあり、「演劇=共体験」の新しい形が模索されています。

また、制作体制にも変化が生まれています。撮影・編集のスキルを持つテクニカルディレクターや、クラウド配信に長けたプロデューサー、SNS運用の専門家など、従来の演劇とは異なるスキルセットを持つスタッフの参加が不可欠となっています。

さらに、バリアフリー演劇との親和性も高く、字幕表示、手話通訳、音声ガイドなどを自由に組み込める環境は、舞台芸術のアクセシビリティを大きく向上させています。



クラウドシアターがもたらす演劇の未来

クラウドシアターは単なる「代替手段」から、独立した演劇ジャンルへと成長しつつあります。これは従来の演劇の枠にとどまらない、新しい文化と経済の可能性を含んでいます。

  • ・観客の拡大:物理的距離を越えて世界中の観客がリアルタイムで参加可能。
  • ・マネタイズの多様化:オンラインチケット、アーカイブ販売、投げ銭、NFTとの連動など、新たな収益モデルが形成。
  • ・表現の自由度向上:現実世界では再現困難な演出が、デジタル空間では可能に。
  • ・教育と研究の革新:演劇教育のオンライン化により、遠隔地の指導や国際的な教育連携が進む。

これにより、演劇が持つ「時間性」「空間性」「身体性」といった従来の定義が揺らぎ始めており、むしろそれを前提にした「ポスト演劇」的な創作が進展しています。

一方で、対面での稽古や客席の生の反応といった「劇場でしか得られない感覚」の重要性も再認識されており、今後は物理空間と仮想空間を横断するハイブリッド演劇として共存していくことが予想されます。



まとめ

クラウドシアターとは、クラウド環境で演劇を創作・上演・観劇するという新しい枠組みを示す用語であり、パンデミックを契機に急速に普及した舞台芸術の革新的な形態です。

技術の進化とともに、演劇は劇場の壁を超えてグローバルな観客とつながり、表現の自由度とアクセス性を飛躍的に拡張しています。クラウドシアターは今や「非常時の代替」ではなく、「日常の新しい演劇表現」として、今後ますますその存在感を強めていくことでしょう。

観客、俳優、制作者、すべてのステークホルダーが新たな表現と出会い続ける場として、クラウド上のシアターは進化を続けています。


▶舞台・演劇用語辞典TOPへ戻る



↑ページの上部へ戻る

ビジプリの印刷商品

ビジプリの関連サービス