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舞台・演劇におけるクラウドスコアライティングとは?

美術の分野におけるクラウドスコアライティング(くらうどすこあらいてぃんぐ、Cloud Score Writing、Écriture de partitions en nuage)は、舞台・演劇における音楽・効果音・サウンドスコアの作成を、インターネットを介してクラウド上で共同制作・共有・編集する手法を指します。作曲家、演出家、音響スタッフが物理的に一か所に集まらずとも、リアルタイムまたは非同期で劇伴音楽や効果音の構築を進められる点が大きな特徴です。

クラウドスコアライティングは、従来の紙媒体やスタンドアロンの音楽制作ソフト(DAW:Digital Audio Workstation)での作業とは異なり、Google Driveや専用のクラウド型作曲ツール(Noteflight、Flat.io、Soundtrap、BandLabなど)を用いて、複数の関係者が同時にアクセス・編集・注釈を行うことが可能です。

演劇において音楽は、登場人物の心理を補強したり、場面転換のタイミングを示したりと、極めて重要な要素です。クラウドスコアライティングの導入により、稽古の進行状況に応じて即座に音楽を加筆修正できる柔軟性や、各セクションごとに異なる作曲者が共同で1つのスコアを仕上げられる協働性が、劇場制作の現場で大きな革新をもたらしています。

また、舞台芸術とテクノロジーの融合が進む中で、リアルタイム音響制御やデジタルサウンドの即時反映など、新たな演出効果の創出にも貢献しています。特にパンデミック以降、クラウドベースでの制作体制は急速に広まり、物理的制約に左右されない演劇創作の中核的手法としての地位を築きつつあります。



クラウドスコアライティングの起源と発展

クラウドスコアライティングという用語は、IT業界における「クラウドコンピューティング」と音楽制作を意味する「スコアライティング」の融合によって生まれた比較的新しい言葉です。元々、音楽分野では1990年代末からクラウドストレージを使った音源共有が試みられていましたが、本格的なクラウド上での作曲・編集機能が整備され始めたのは2010年代以降です。

演劇の世界においては、以前から演出家が作曲家に「この場面では緊張感を出してほしい」などの抽象的な指示を与えることが一般的でしたが、物理的に距離があると対応にタイムラグが生じていました。そこで、リアルタイムで進行する稽古と音楽制作のシームレスな連携を実現する手段として、クラウドスコアライティングが注目されるようになったのです。

特に2020年以降、新型コロナウイルス感染症による対面稽古の制限がきっかけとなり、オンライン稽古・配信公演が増える中、音楽制作の現場でもクラウドベースの手法が急速に浸透しました。

現在では、作曲者がオンラインでスコアを制作し、それを稽古動画に同期させたり、演出家がコメントを残すことで即時に修正が加えられるなど、リモートコラボレーションの中心的ツールとして位置付けられています。



クラウドスコアライティングの仕組みと実践

クラウドスコアライティングの実践には、いくつかの基本的な要素が関わっています。

  • ① クラウド作曲プラットフォームの活用:オンライン対応の音楽制作ツール(例:Flat.io、Noteflight、BandLab)を使用。
  • ② マルチユーザー同時編集:複数人でスコアを同時に作成・修正・試聴。
  • ③ 稽古動画・演出資料との連携:稽古映像にスコアを合わせ、視覚と聴覚のタイミングを検証。
  • ④ コメント・タグ機能の活用:音楽的な意図や演出上の要望を明示的に共有。

演出家は特定のシーンで「不安感を煽る音」をリクエストし、作曲家がそれに応じてアレンジしたフレーズを即座にアップロードする——といったように、稽古とスコア制作の間の距離が極限まで短縮されるのが最大のメリットです。

また、クラウド上に保存された音源はバージョン管理が可能なため、リハーサルでの変更履歴や過去の試作曲をさかのぼって確認でき、演出の変化に柔軟に対応するためのドキュメンテーションとしても機能します。

さらに、著作権管理機能を備えたサービスを活用すれば、音楽作品の著作権や共有範囲を制限・明示でき、創作者の権利保護にも寄与します。



クラウドスコアライティングがもたらす演劇制作の未来

クラウドスコアライティングの普及により、舞台制作には以下のような変化と革新が生まれています:

  • ・地理的制約からの解放:東京の劇団と福岡在住の作曲家がリアルタイムで共同制作可能。
  • ・マルチジャンル対応:生楽器・電子音楽・フィールドレコーディング素材など多様な音が組み合わせ可能。
  • ・教育的活用:演劇学校やワークショップにおいて、学生が共同で劇音楽を制作する訓練にも最適。
  • ・アーカイブ性の強化:音楽制作過程そのものをドキュメントとして残すことで研究資料にも。

特に、即興演劇やインタラクティブ演劇といったライブ性の強いジャンルとの親和性が高く、AIを用いた作曲支援やリアルタイム演奏との融合など、今後の技術発展に応じた新たな演出方法も期待されています。

同時に、演劇界において音楽制作の民主化が進むことにより、作曲家でない演出家や俳優でも、簡単なツールを使って自分の作品に音楽を加えることができるようになり、演劇の表現領域そのものが拡張されつつあります。



まとめ

クラウドスコアライティングとは、クラウド上で舞台音楽を共同制作・編集・共有する手法であり、演劇制作の現場において時間・距離・人材の壁を超える革新をもたらしています。

演出家、作曲家、音響チームの間で密な連携を図りながら、稽古の進行と並行して音楽を柔軟に制作・修正できるこの方法は、現代演劇のスピード感と多様性に対応した新しい制作スタイルとして定着しつつあります。

今後は、AIやリアルタイムパフォーマンスとの連動を含め、クラウドスコアライティングは舞台芸術の創造的革新を牽引する重要な概念としてますます注目されていくことでしょう。


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