【クラウンとは？】ビジプリ舞台・演劇用語辞典

クラウンの歴史と起源

クラウンの起源は非常に古く、古代ギリシャ・ローマ時代にまでさかのぼることができます。当時の劇場において、滑稽な人物が観客の笑いを誘うことで、悲劇と喜劇の緩急をつける役割を果たしていました。

中世ヨーロッパでは、王の宮廷に仕える「宮廷道化師（ジョーカー）」が誕生し、社会的に特権的な立場から王や権力者に対して風刺を込めた言葉を投げかける存在として知られていました。この伝統は、ルネサンス期の演劇においても継承され、シェイクスピアの戯曲に登場する “Fool（道化）” や “Clown” は、しばしば哲学的な真理を語るキャラクターとして描かれています。

その後、イタリアの コメディア・デラルテ においては、アルレッキーノやピエロといったクラウン的キャラクターが定型化され、仮面劇・即興劇の中核として発展します。これが現代のクラウンの原型となりました。

19世紀には、クラウンの表現はサーカス芸術の中で最も象徴的な存在となり、白塗りの顔と大きな赤鼻を持つ“アウグスト（愚か者）”と、冷静で整った“ホワイトフェイス（白顔）”という二つの典型的スタイルが確立されました。

クラウンの技術と現代演劇における応用

現代の演劇において、クラウンは単なる滑稽なキャラクターではなく、高度な身体性・感情表現を伴う演技様式として重視されています。

クラウンの演技では、以下のような技術要素が求められます：

• ミム（無言劇）：台詞よりも身体表現を重視し、感情を誇張して伝える。
• スラップスティック：転倒、ぶつかり、物の破損などを笑いに変える技法。
• タイミング：笑いを生み出す間合いやテンポのコントロール。
• フォースウォール（第四の壁）の破壊：観客と直接コミュニケーションを取る手法。

また、現代のクラウンは劇場の枠を超えて活動しており、特に注目されているのが「ホスピタル・クラウン」です。病院での子どもたちの精神的支援を目的としたこの活動は、癒しの笑いを届ける重要な社会的役割を果たしています。

さらに、教育現場におけるドラマ教育、企業向けのコミュニケーション研修などにも応用され、クラウンの価値は“演じる”ことを超えて、“関係を築く力”としても見直されています。

クラウン表現の課題と未来への展望

クラウン表現は時代とともに進化を続けていますが、その一方でいくつかの課題も抱えています。

まず、ステレオタイプな「怖いピエロ」像がメディアで拡散され、子どもたちを不安にさせるという現象（いわゆる「ピエロ恐怖症」）が指摘されています。これは、クラウンの本来の意義を誤解させるものであり、教育的な取り組みを通じた再評価が求められています。

また、サーカスや大道芸の衰退とともに、クラウンが観られる機会そのものが減っていることも事実です。しかしその一方で、現代演劇やパフォーマンスアートの中でクラウン的表現を活用する演出家や俳優は増えており、クラウンは形を変えながら生き続ける芸術といえるでしょう。

今後は、身体障害者との協働による“インクルーシブ・クラウン”や、AIやVRを取り入れた“デジタル・クラウン”のような新たな表現領域も期待されています。

まとめ

クラウンは、古代から現代に至るまで人々に笑いと深い洞察をもたらしてきた、演劇の重要な存在です。

その表現は、社会批評、感情解放、癒し、教育といった多様な価値を持ち合わせており、舞台の上にとどまらず、私たちの暮らしの中にも広がりを見せています。

クラウンは単なる「おどけ者」ではなく、人間の本質と可能性を問い続ける芸術的な存在として、今なお私たちの心を揺さぶり続けているのです。