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舞台・演劇におけるクラウンアクトとは?

美術の分野におけるクラウンアクト(くらうんあくと、Clown Act、Acte de clown)は、サーカスや舞台芸術、演劇において道化師(クラウン)による演技やパフォーマンスの総称を指します。滑稽さ、ユーモア、身体的技巧、時には社会風刺を織り交ぜながら、観客に笑いや感動を届ける演技スタイルです。

「クラウン」は赤鼻をつけた伝統的な道化師を意味するだけでなく、現代では演劇的な解釈や即興性を取り入れたパフォーマンスとして再定義されています。そしてクラウンアクトとは、クラウンが一連の演技、動作、対話、ギャグなどで構成する“場”や“演目”そのものを意味し、舞台芸術において特異なジャンルを形成しています。

英語では「Clown Act」、仏語では「Acte de clown」または「Numéro de clown」と表記され、どちらもパントマイムや身体表現を主体とするパフォーマンスアートの一形態として、ヨーロッパを中心に長い歴史を有しています。

舞台・演劇においては、喜劇的な中継ぎ、演目間の緩衝材としてだけでなく、登場人物として物語の深層を暴いたり、観客との対話を担ったりする重要な役割を担うケースもあります。特に現代の演劇作品では、クラウン的要素を取り入れた演出がしばしば見受けられ、芸術的・社会的メッセージを伝える手段としても進化を続けています。



クラウンアクトの歴史と発展

クラウンアクトの歴史は古代ローマ時代にまでさかのぼります。当時の宮廷では滑稽な道化役が王侯貴族を楽しませる存在として重用されており、これが後のヨーロッパ中世における「ジョーカー」や「フール」へと発展します。

17世紀のイタリアで発展したコメディア・デラルテにおいては、アルレッキーノ(Harlequin)ピエロ(Pierrot)といったクラウン的キャラクターが登場し、即興性と物語性を融合した演技の源流を築きました。

19世紀になると、サーカスの隆盛とともに「ホワイトフェイス(白塗りの知的なクラウン)」と「オーガスト(無邪気でトリッキーなクラウン)」という2つの典型的なキャラクターが誕生し、クラウンアクトはますます体系化されていきます。

20世紀には、チャップリンやバスター・キートンのような無声映画の名優たちが、クラウンの演技様式を映画に持ち込み、身体表現の豊かさとユーモアを映像芸術に展開しました。

また、1960年代以降の現代演劇では、ピナ・バウシュのタンツテアターやジャック・ルコックによる身体演劇など、クラウンの要素を哲学的・芸術的に再構築する試みが広がり、クラウンアクトは再び注目されるようになりました。



クラウンアクトの構成と技法

クラウンアクトは、以下のような構成要素によって成り立ちます。

  • 1. キャラクター性:クラウンには「ホワイトフェイス」「オーガスト」「トランプクラウン」などのタイプがあり、性格や立ち位置が明確に異なります。
  • 2. フィジカル・コメディ:身体の動きやジェスチャーによる視覚的なギャグ。スラップスティック(物理的な衝突を用いた笑い)も多く見られます。
  • 3. パターンとルーティン:何度も繰り返される行動、タイミングのずれ、勘違いによる笑いなど、型のある構成が用いられます。
  • 4. インタラクション:観客と直接的にやりとりを行う「ブレイク・ザ・フォースウォール(第四の壁を破る)」演出が特徴的です。

さらに、現代のクラウンアクトでは、社会風刺、環境問題、戦争、愛と死といったシリアスなテーマを扱うことも多くなっており、「ただの道化」ではない表現力が求められます。

演者は徹底した訓練を受けており、動きのキレ、観客との間合い、即興力、空間把握能力などが問われます。近年では「ソーシャルクラウン」として病院、福祉施設、被災地などで人々の心に寄り添う活動を行うケースもあります。



現代演劇におけるクラウンアクトの意義と活用

現代演劇において、クラウンアクトは単なる笑いの提供にとどまりません。その演出手法は、物語の深層心理を掘り下げたり、観客の視点をずらしたりする装置として活用されています。

たとえば、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』では、クラウン的なやり取りが不条理な世界観の補強に寄与しています。また、日本の舞台においても、野田秀樹や松尾スズキなどがクラウン的演出を用い、登場人物の感情の揺れや社会批評を巧みに表現しています。

教育現場でもクラウンアクトは広く用いられています。演劇ワークショップでは、自己表現の第一歩としてクラウンの技法が取り入れられ、失敗を恐れず自分を開放する演劇的訓練として高く評価されています。

さらに、近年の舞台ではジェンダー表現や身体性の再構築をテーマにしたクラウンアクトも登場し、「笑い」と「気づき」が共存する芸術表現として再評価されています。



まとめ

クラウンアクトは、道化師によるユーモラスかつ身体的な演技を軸とした、演劇・舞台芸術の独自ジャンルです。

そのルーツは古代から現代に至るまで多彩な発展を遂げ、笑いと共に観客の心に深く訴えかける力を持ちます。

今日では、単なるコメディ要素にとどまらず、社会批評や哲学的問いかけ、心のケアといった広い文脈で活用されており、演劇の可能性を広げる存在として重要な役割を担い続けています。


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