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演劇におけるサブシステムライティングとは?

舞台・演劇の分野におけるサブシステムライティング(さぶしすてむらいてぃんぐ、Subsystem Lighting、Eclairage de sous-systeme)は、舞台・演劇における照明演出の一手法であり、舞台全体の主照明(メインシステム)とは別に設けられた照明の部分的な制御系統、またはその運用方式を指します。これにより、特定のシーンやエリア、演技動線に応じた細やかなライティング操作を可能にし、より複雑かつ繊細な演出効果を実現することができます。

サブシステムライティングは、基本的には舞台照明の「ゾーン制御」や「グループ制御」に基づいた考え方であり、全体構成とは独立または半独立した照明群を別系統で管理することによって、演出意図に応じた柔軟な照明設計を可能にします。これにより、舞台上の一部の人物だけを照らす、特定のセットだけに光を当てる、あるいは「記憶」「幻想」「時間の断層」といった非現実的要素を視覚的に強調するなど、表現の幅が大きく広がります。

演劇においては、サブシステムライティングは単に技術的な補助手段ではなく、演出家と照明デザイナーとの創造的協働の結果として生まれる“意味ある光”を生み出す重要な要素です。近年ではデジタル制御の進化により、この手法はより洗練され、複雑な構造を持つ現代舞台においては不可欠なシステムとなっています。

英語表記では 'Subsystem Lighting'、仏語では 'Eclairage de sous-systeme' と表現され、海外の舞台照明システムでも類似の概念が存在しますが、日本語での「サブシステムライティング」という呼称は特に実務的な現場用語として定着しています。



サブシステムライティングの起源と進化

舞台照明におけるサブシステムライティングという考え方は、20世紀後半の舞台技術の電子化と共に発展してきました。かつては舞台照明は物理的なスイッチ操作に頼っていたため、シーンごとに照明を切り替えるには膨大な手間と人手が必要でした。しかし、DMX512をはじめとする照明制御プロトコルの登場により、複数の照明系統を独立して制御できる環境が整備され、これが「メイン」と「サブ」の概念を明確に分ける土台となったのです。

この発展の過程で、照明技術者たちは舞台全体を一つの系統(メインシステム)で管理するだけでは限界があると感じ始め、部分的に独立したグループを設けることで、より細やかなライティングが可能になると考えるようになりました。これが今日の「サブシステムライティング」と呼ばれる形式の誕生につながったのです。

1990年代から2000年代にかけて、プログラマブルな照明コンソールが劇場現場に広く普及し、照明設計の中で「ゾーニング」「セレクティブライト」「マトリクス制御」などの概念が取り入れられました。この中で、照明デザイナーは「サブシステム」として舞台の部分的制御ブロックを作成し、演出のニーズに合わせて瞬時に起動・切り替えができる体制を整えました。

この方式は、特に照明による象徴性や感情の可視化が重視される現代演劇において不可欠な演出ツールとなっており、今日では演出家と照明チームとのコミュニケーションの中でも頻出の技術用語となっています。



サブシステムライティングの機能と使用例

サブシステムライティングの最大の利点は「局所制御による表現の自由度の向上」にあります。この機能を活用することで、以下のような演出が実現されます:

  • 部分的照明:舞台上の一部にだけ光を当てる(例:登場人物の立つエリアのみ照射)。
  • 時間・空間の切り替え:同じ舞台セットの中に複数の時間軸や空間設定を同居させる。
  • 心理描写の視覚化:人物の内面や回想、幻覚などを象徴的に光で表現。
  • 転換の演出補助:舞台転換中も客席の意識を別エリアに集中させ、暗転や黒幕なしで場面移行を行う。
  • シーンごとのテンション制御:同じセットでも、サブシステムによって光の色や明暗を変化させ、雰囲気を一変させる。

具体的には、舞台右手の応接間セットを一つのサブシステムとして独立させ、舞台左手の病院セットとは別制御とすることで、照明効果による時間・空間の多層構造を実現するといった使い方がなされます。

また、ミュージカルやダンス作品では、群舞パートとソロパートで照明を切り替えるために、複数のサブシステムが用意されることもあり、演技者の配置や動線と連動した動的な照明演出が可能となります。



現代演劇とサブシステムライティングの未来

現代の演劇では、サブシステムライティングは単なる照明効果を超え、演劇構造そのものの表現装置として認識されるようになっています。

特に以下のような潮流において、その意義は拡大しています:

  • ポストドラマ演劇:舞台美術や物語が解体される中で、「光だけで場面や感情を作る」ことが求められる。
  • テクノロジーとの融合:センサー制御やAIプログラミングと連動し、俳優の動きに応じて自動的にサブライトが切り替わる演出が登場。
  • インクルーシブな舞台づくり:視覚に障害を持つ観客に向けたライティングガイドなど、光を言語的・機能的に用いる演出。
  • 環境演劇・没入型演劇:観客が自由に動く形式の中で、サブシステムでゾーンごとの照明制御を行い、各体験に個別性を持たせる。

さらに、照明ソフトウェアの進化により、従来は照明オペレーターが手動で行っていた操作が、あらかじめキュー化・タイムライン化されることで、シーン切り替えの完全自動化や、複数の照明状態の即時呼び出しも可能となっています。

このように、サブシステムライティングは、舞台芸術における「空間と時間の編集技術」として、今後もますます重要性を増していくでしょう。



まとめ

サブシステムライティングとは、舞台照明において主制御系とは別に設けられた部分照明系統を用いて、シーンや空間を柔軟に演出する照明手法です。

その技術的な利点はもちろん、演出意図や観客体験と深く結びつくことで、現代演劇の表現可能性を大きく広げています。

照明が単なる「光」ではなく「語る装置」となっている今、サブシステムライティングは舞台芸術の未来を切り拓く鍵のひとつとなるでしょう。

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