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演劇におけるソーシャルインタラクションアクトとは?

舞台・演劇の分野におけるソーシャルインタラクションアクト(そーしゃるいんたらくしょんあくと、Social Interaction Act、Acte d’interaction sociale)とは、観客と演者、あるいは観客同士の社会的相互作用を主軸に据えた演劇的実践を指します。従来の演劇が「物語の提示」に重点を置いてきたのに対し、この形式では舞台上の行為を通じて生じる人と人との関係性やコミュニケーションそのものが表現の中核となります。

この用語は、主に参加型演劇やインタラクティブ・パフォーマンスの領域で用いられ、観客を受動的な存在として扱うのではなく、能動的な参加者、対話の相手、共演者として巻き込む特徴を持ちます。舞台の境界を越えた「社会的演劇空間」の形成を通して、自己と他者、個人と共同体との関係性を再考させるのが目的です。

ソーシャルインタラクションアクトは、教育現場、地域コミュニティ、医療福祉の場面など、多様なフィールドで活用されており、演劇の社会的可能性を拡張する手法として注目されています。



ソーシャルインタラクションアクトの起源と背景

ソーシャルインタラクションアクトの概念的源流は、20世紀中盤の演劇改革にまで遡ることができます。アウグスト・ボアールの「被抑圧者の演劇」や、イギリスにおける「コミュニティ・シアター」、またドイツの「ブレヒト演劇」などがその先駆的存在として位置付けられます。

これらの運動は、観客の受動性に異議を唱え、「共演者」あるいは「社会的関係性の担い手」としての役割を再設定しようとしました。そこから生まれたのが、舞台芸術を社会的プロセスと捉え、関係性の中にドラマを発見しようとする視座です。

21世紀に入り、テクノロジーの進化やSDGsの台頭と共に、演劇もまた人間同士の接続や協働に注目するようになりました。このような文脈の中で、「ソーシャルインタラクションアクト」は特定の演目や技法を指すというよりも、広義の実践概念として浸透していったのです。



具体的な実践と演出手法

ソーシャルインタラクションアクトの特徴は、観客との相互作用を演劇の構造に組み込む点にあります。以下に代表的な演出形式を紹介します:

1. ダイアログ演劇
観客と登場人物が対話形式で意見交換するタイプ。教育現場でのいじめ問題や、地域の多文化共生など、社会的なテーマを扱う場面で用いられます。

2. 即興参加型シーン
途中で観客が舞台に上がり、ある役割を担うことでストーリーが進行する。リアルタイムで展開が変化するため、参加者の判断力・共感力が問われる演出です。

3. インスタレーション的手法
舞台空間を回遊型にし、観客が能動的に移動・選択しながら演劇に関与する。近年の没入型演劇(immersive theatre)にも共通する要素があります。

また、VRやARといったテクノロジーとの融合により、非接触でも社会的相互作用を生み出す試みも増加しています。これにより、遠隔地の観客同士が仮想空間で「共に舞台を体験する」といった新しい形の演劇実践も可能となっています。



演劇的・社会的意義と今後の展望

ソーシャルインタラクションアクトが果たす意義は、単なる「面白さ」や「参加性」にとどまりません。むしろ、以下のような社会的効用が評価されています:

  • 多様な価値観を持つ人々が共に表現することで、対話と共感の場が創出される
  • 「他者の視点」に立つ経験が、偏見の解消社会的包摂に貢献する
  • 従来の演劇では届かなかった層に演劇体験の門戸を広げる

一方で、社会的な効果を狙いすぎて「説教臭い演劇」や「一方通行的な演出」になってしまうリスクもあり、演出家やファシリテーターには演劇的美学と社会的実効性のバランスが問われています。

また、今後は国際的なネットワークや研究機関との連携により、より実証的・学術的な視座からこの手法の評価や発展が進むと考えられます。



まとめ

ソーシャルインタラクションアクトは、観客と演者が互いに関与しながら舞台を構成する革新的な演劇形式です。

この手法は、現代社会が抱える多様性・孤立・断絶といった課題に対して、演劇の力で新たなつながりや対話の回路を開こうとする実践であり、今後ますます多様な分野での応用が期待されています。

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