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美術におけるシーケンシャルペインティングとは?

美術の分野におけるシーケンシャルペインティング(しーけんしゃるぺいんてぃんぐ、Sequential Painting、Peinture séquentielle)は、複数の場面や動作を連続して描くことで、時間の経過や物語性を表現する絵画技法です。1枚の作品内や連作の中で、絵が時間軸に沿って展開していくのが特徴で、視覚的に「読む」ような体験を生み出します。



シーケンシャルペインティングの基本概念

シーケンシャルペインティングとは、連続する場面を順を追って視覚的に描写する絵画表現であり、「順序(シーケンス)」という概念が鍵となります。一般的には、1枚の大きなキャンバスに複数の時間帯の場面を描いたり、数枚の絵を並べて物語を進行させたりする形式がとられます。

この技法は、静止画の中に時間の流れを取り込むことを目的としており、鑑賞者は視線を動かすことで絵の中にある「出来事の変化」や「物語の展開」を読み取っていきます。マンガや絵巻物、フレスコ画などにも共通する原理を持ち、美術表現における時間性の導入という点で重要な位置を占めています。



歴史的背景と伝統的表現との関係

シーケンシャルペインティングの原型は、古代からさまざまな文化に見られます。たとえば、古代エジプトの壁画や、ギリシアの壺絵、日本の絵巻物などでは、登場人物や風景が時間順に並べられ、視覚的に物語が進行するように描かれていました。

ルネサンス以降のヨーロッパ美術では、アルターピース(祭壇画)のパネル形式や、宗教画における複数場面の描写にこの要素が引き継がれています。19世紀末には、象徴主義やナビ派の画家たちが夢や内面世界を連作形式で表現するなど、絵画の時間性への意識が高まります

20世紀以降では、抽象表現主義やコンセプチュアルアートの中でもこの手法が再評価され、現代においては絵画・映像・インスタレーションが融合する中で新たな可能性を見せています。



表現方法と時間性のコントロール

シーケンシャルペインティングでは、時間の経過をどう見せるかが最大の課題となります。ある作品では、同一人物を複数回描写することで行動の連続を示し、またある作品では風景の変化や色彩の移ろいを通じて、時間や感情の推移を表現します。

レイアウトとしては、左から右、上から下へと視線を誘導する構図がよく使われますが、視線の流れをあえて逸らすことで時間や記憶の曖昧さを演出する作品もあります。また、絵画をパネルやスクロール形式にすることで、観る順番そのものを体験の一部に組み込む試みもなされています。

このように、描写だけでなく、構成そのものに物語性を埋め込む点が、この技法の大きな特徴です。



現代美術における応用と多分野的展開

現代美術では、ナラティブ(物語性)と時間性を取り入れた作品が増え、シーケンシャルペインティングの概念はますます拡張しています。とくにマンガ文化やアニメーション、グラフィックノベルといった表現領域と交差することで、新たな文脈が生まれています。

また、絵画だけでなく、デジタルメディアやプロジェクションマッピングを使った動的な展示の中でも、この技法の精神は活かされており、観客の動きや時間的体験を前提としたインスタレーションにも応用されています。

教育の現場では、児童や学生に「順序立てて考える力」や「視覚的に構成する力」を養うための教材として活用されることもあり、美術だけでなく物語創作やコミュニケーション教育にも通じる要素が評価されています。



まとめ

シーケンシャルペインティングは、絵画の中に時間や物語を持ち込むための表現手法であり、静止したイメージの中に動きや変化を生み出す力を持っています。

古代から現代まで、文化や技術の変化とともに多様に展開されてきたこの技法は、今後も新しい表現媒体との融合によって進化し続けることでしょう。見る者に「読む」体験を与えるこのアートは、視覚芸術における物語性の探求に欠かせない重要な要素となっています。


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