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美術におけるシミュレーショニズムとは?

美術の分野におけるシミュレーショニズム(しみゅれーしょにずむ、Simulationism、Simulationnisme)は、1980年代以降のアートに見られる思想で、現実と模倣、オリジナルとコピーの境界を問い直す芸術動向です。メディア社会における視覚表現のあり方を再考する上で重要な概念です。



ポストモダンの文脈で登場した新しい視点

ポストモダン美術の潮流の中で登場したシミュレーショニズムは、ジャン・ボードリヤールの「シミュラークル」理論を背景に、現実と虚構が曖昧になる現代社会を反映した表現として発展しました。オリジナリティの喪失や、大量消費文化への批評的視点が根底にあります。

特に1980年代のアメリカでは、リチャード・プリンスやシェリー・レヴィーンなどのアーティストが、既存の写真や作品を再撮影・再構成することで、「オリジナルとは何か?」を問いかける作品を展開しました。このように、既成のイメージをあえて再利用することで、独自の価値観や批評性を生み出すのがシミュレーショニズムの特徴です。



模倣とコピーによる価値の再構築

シミュレーショニズムでは、「模倣」「コピー」「再制作」など、従来であれば否定的に捉えられがちな行為が、創作の手段として積極的に用いられます。このアプローチにより、オリジナルという概念自体が相対化され、観る側にも再考を促します。

たとえば、既存の広告写真をそのまま再構成して作品化する行為は、消費社会のイメージ氾濫をそのまま作品に取り込むことで、私たちの視覚認識や記憶に疑問を投げかけるものです。また、かつての名画を模倣することで、その芸術的権威や制度に対する皮肉や批判を示す場合もあります。



デジタル時代と親和性の高い思想

インターネットやSNSが普及した現代において、シミュレーショニズムの考え方はより重要性を増しています。誰でも画像を複製し、再編集できる時代において、オリジナルとコピーの境界はますます曖昧になっています。

ミームやAI画像生成といった表現は、まさに「模倣の上に成り立つ創造」ともいえるでしょう。そうした意味で、シミュレーショニズムは単なる美術の潮流にとどまらず、現代社会のメディア環境そのものを映し出す鏡として機能しているのです。現代のアーティストたちも、この思想をもとに新たな表現を模索しています。



批評性とユーモアの共存が魅力

シミュレーショニズムの作品には、しばしば批評的視点とユーモアが共存しています。オリジナルをまねるという行為には、笑いや風刺が込められていることも多く、その軽やかさが重厚な美術の枠組みをほぐしてくれます。

ときに皮肉を込め、ときに遊び心を持って、「似て非なるもの」を表現する。そこには、アートの役割を新たに問い直す力があります。シミュレーショニズムは、単にコピーを重ねるだけではなく、意味や価値の再解釈によってアートに新たな視点をもたらす運動ともいえるでしょう。



まとめ

シミュレーショニズムは、模倣やコピーを通してオリジナルの意味を問い直す表現です。

現代の情報社会において、その思想はますます注目されており、美術に限らずあらゆる視覚表現に影響を与え続けています。自由で批評的な発想を生む土壌として、今後もその意義は拡がっていくでしょう。


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