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美術におけるシリコンモールドとは?

美術におけるシリコンモールド(Silicon Mold)は、シリコン樹脂を用いた精密な型取り技術です。

複雑な形状の複製を可能にし、現代の造形表現に革新をもたらしました。

特に立体作品の制作プロセスにおいて重要な役割を果たしています。



シリコンモールドの技術的特徴と優位性

シリコンモールドの最大の特徴は、0.1ミクロン単位の微細なディテールまで正確に複製できる点にあります。従来の石膏型に比べて柔軟性が高く、複雑なアンダーカット形状でも完全な型取りが可能です。特に医療用シリコンを応用した高精度タイプは、指紋や毛穴といった極めて細かい質感まで再現できます。

この技術により、作家はオリジナル作品を損なうことなく、同一形状の複数制作や素材変換(ブロンズ、樹脂など)が可能になりました。また、シリコンの耐熱性(-40℃~200℃)を活かし、鋳造用マスターとしても重用されています。



現代美術における応用事例

シリコンモールドは、ハイパーリアリズム彫刻の分野で不可欠な技術となっています。ロン・ミュエクやサム・ジンクスといった作家は、人体の一部を直接型取りし、驚異的なリアリティを実現しています。2010年代以降、3Dスキャン技術と組み合わせることで、より非侵襲的な型取り方法も確立されました。

日本の作家では、舟越桂が木彫作品の原型制作にシリコンモールドを活用しています。また、草間彌生の「かぼちゃ」シリーズなど、大量生産が必要な作品の原型制作にも応用されています。



制作プロセスと技術的進化

現代のシリコンモールド制作では、プラチナ硬化型シリコンが主流です。2液を混合するタイプで、粘度を調整することで気泡の発生を防ぎます。最近では、3Dプリンターで作成した原型に直接シリコンを塗布するハイブリッド技法も開発されました。

特に注目すべきは、デジタルスキャン→CAD修正→3D出力→シリコン型取りという新しいワークフローの確立です。これにより、物理的に型取りが困難な大規模作品や、過酷な環境下での型取りが可能になりました。



保存と倫理的課題

シリコンモールドは、適切に保管すれば10年以上の使用に耐えます。ただし、直射日光や高温多湿を避ける必要があり、美術館レベルの保存環境が求められます。近年では、UV劣化に強い新型シリコンの開発が進んでいます。

倫理的には、人体を直接型取る場合の被写体の権利が重要な課題です。特に顔などの個人が特定可能な部位については、事前の合意書作成が必須となっています。また、生分解性シリコンの採用など、環境配慮も求められています。



まとめ

シリコンモールドは現代美術の表現を支える重要な技術基盤です。

その精密さと汎用性は、作家の創造性を大きく拡張しました。

技術の進歩と倫理的な配慮のバランスが、今後の発展の鍵となるでしょう。


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