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美術におけるシンボリズムアートとは?

美術の分野におけるシンボリズムアート(しんぼりずむあーと、Symbolism Art、Art Symboliste)とは、19世紀後半にフランスを中心にヨーロッパで発展した芸術運動のことを指します。現実世界の単なる再現ではなく、象徴や暗示を用いて内面的な思想や感情、精神世界を表現しようとする芸術様式であり、夢や神話、宗教的テーマを題材にした作品が特徴的です。



シンボリズムアートの起源と歴史的背景

シンボリズムアートは1880年代、自然主義や写実主義への反発として誕生しました。1886年に詩人ジャン・モレアスが「象徴主義宣言」を発表したことが運動の公式な始まりとされています。この宣言は文学における象徴主義の原則を示したものでしたが、すぐに美術の分野にも影響を与えました。

当時のヨーロッパでは、産業革命による社会変化や科学的合理主義の台頭に対する反動として、精神性や神秘主義への関心が高まっていました。現実の単なる模写ではなく、目に見えない内的真実を表現したいという芸術家たちの願望がシンボリズムアートの原動力となりました。

また、シンボリズムアートはロマン主義の延長線としての側面も持ち、感情や直感、想像力を重視する点で共通しています。しかし、ロマン主義が感情の直接的な表現を追求したのに対し、シンボリズムはより象徴的、暗示的な表現方法を採用しました。



シンボリズムアートの特徴と代表的作家

シンボリズムアートの最大の特徴は、可視的な現実を超えた精神世界の表現にあります。象徴主義の芸術家たちは、神話や宗教、夢、幻想などを題材に、観る者の内面に直接訴えかける象徴的なイメージを創造しました。

代表的な画家としては、フランスのギュスターヴ・モロー、オディロン・ルドン、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、ベルギーのフェルナン・クノップフやフェリシアン・ロップス、ノルウェーのエドヴァルド・ムンク、スイスのアルノルト・ベックリンなどが挙げられます。彼らの作品には、死、愛、恐怖、孤独といった普遍的なテーマが象徴的に描かれています。

技法的には、写実的な描写と幻想的な要素を組み合わせたり、色彩や線を象徴的に使用したりする手法が見られます。また、装飾的要素を取り入れた作品も多く、後のアール・ヌーヴォーやウィーン分離派といった芸術運動にも影響を与えました。



シンボリズムアートの象徴性と主題

シンボリズムアートにおいて、象徴は単なる装飾ではなく、作品の本質的な要素として機能しています。芸術家たちは神話的・宗教的シンボルを頻繁に用い、それらを通じて普遍的な真理や人間の精神状態を表現しようとしました。

頻繁に描かれる主題としては、死と再生、官能性と罪、神話的存在(スフィンクス、天使、悪魔など)、夢と現実の境界などが挙げられます。特に女性像は多くの作品で中心的な役割を果たし、純潔と堕落、魅惑と恐怖といった二元性を象徴する存在として描かれることが多くありました。

また、シンボリズムアートは当時の文学、特にボードレールやマラルメといった象徴主義詩人の作品と密接な関係を持っていました。芸術家たちは文学からインスピレーションを得て、言葉では表現しきれない観念を視覚的に具現化しようと試みたのです。



シンボリズムアートの影響と現代における評価

シンボリズムアートの影響は20世紀初頭の様々な前衛芸術運動に及んでいます。特にシュルレアリスムは、無意識や夢の世界を探求する点でシンボリズムの精神を継承しており、サルバドール・ダリやルネ・マグリットらの作品にはシンボリズムの影響が明らかに見て取れます。

また、表現主義やダダイズムなど、形而上学的な問題意識を持つ芸術運動も、シンボリズムの問題提起を引き継いでいます。現代アートにおいても、象徴的な表現方法は重要な要素であり、シンボリズムの遺産は様々な形で生き続けています。

美術史におけるシンボリズムアートの評価は、20世紀半ばまではモダニズムの隆盛によってやや低調でしたが、ポストモダニズムの登場とともに再評価されるようになりました。現代では、単なる過去の様式としてではなく、芸術における象徴性や精神性の探求という永続的なテーマの重要な一章として認識されています。



まとめ

シンボリズムアートは、19世紀末から20世紀初頭にかけて花開いた重要な芸術運動であり、現実の単なる模倣ではなく、象徴を通じて内面世界や精神性を表現しようとした点に大きな意義があります。

その影響は現代美術にまで及び、視覚芸術における象徴性の重要性を示す歴史的な転換点となりました。今日でも、私たちが芸術作品に内在する意味や象徴を読み解こうとするとき、シンボリズムアートが切り開いた視点が生かされているのです。


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