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美術におけるスタッコとは?

美術におけるスタッコ(Stucco)は、建築装飾から現代アートまで幅広く用いられる伝統的な技法です。

その素材特性と表現力が、西洋建築史において重要な役割を果たしてきました。

現代では伝統技法と新技術の融合により、新たな表現可能性を開いています。



スタッコの材料特性と基本技法

スタッコの主原料は石灰大理石粉を混合したもので、乾燥後は非常に堅牢な表面を形成します。伝統的な技法では、下地に数層に分けて塗り重ね、最終層で精緻な装飾を施します。イタリアのルネサンス期に確立された技法では、乾燥途中のスタッコに浮彫り細工を施す「スグラッフィート」技法が発達しました。

現代のスタッコはアクリル樹脂を混入した改良型もあり、より施工性と耐久性が向上しています。特に耐候性に優れ、屋外の建築装飾や公共アートに広く用いられています。伝統的な石灰系スタッコは呼吸性に優れ、歴史的建造物の修復に不可欠な材料です。



歴史的発展と建築装飾

スタッコ装飾の起源は古代ローマにまで遡り、ポンペイの遺跡からも精巧なスタッコ装飾が発見されています。バロック時代には、天井装飾として発展し、教会や宮殿の内部空間を劇的に変容させました。イタリアの建築家ベルニーニやボロミーニは、スタッコによる錯覚効果(トロンプ・ルイユ)を駆使した空間演出で知られます。

18世紀のロココ様式では、より繊細で優美なスタッコ装飾が流行しました。特にドイツやオーストリアの教会建築では、白を基調とした軽やかな装飾が空間に浮遊感を与えています。この伝統はアール・ヌーヴォー時代まで受け継がれ、建築と装飾の統合を追求しました。



現代美術における表現展開

現代アーティストはスタッコを、物質性そのものを問う表現手段として再解釈しています。アンティックな質感を活かしたインスタレーションや、表面の経年変化を作品の一部とするコンセプチュアルな試みが見られます。イタリアの現代美術家ジュゼッペ・ペノーネは、スタッコの素材感を生かした作品で知られています。

建築分野では、スタッコの持つ温かみのある質感が見直され、現代建築の外装材としても採用されています。特に歴史的街並みとの調和が求められる地域では、スタッコ仕上げが景観形成に重要な役割を果たしています。



保存修復と技術継承

歴史的建造物の修復では、伝統的配合のスタッコを使用することが不可欠です。科学的分析により原素材を特定し、当時の技法を忠実に再現する作業が行われています。ヴェネチアの修復学校では、伝統的なスタッコ技法の継承が重要なカリキュラムとなっています。

日本でも、洋風建築の保存修復を目的にスタッコ技術の研究が進められています。特に戦前のモダニズム建築に用いられたスタッコ装飾の修復には、高度な技術が要求されます。材料科学の進歩により、伝統素材と現代技術を融合させた新しい修復方法も開発されています。



まとめ

スタッコは建築と美術を結ぶ千年の技法です。

その素材感と表現力は、時代を超えてアーティストを魅了します。

伝統と革新の融合により、新たな可能性を模索し続けています。


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