美術におけるスプレーフィキサチーフとは？
美術の分野におけるスプレーフィキサチーフ（すぷれーふぃきさちーふ、Spray Fixatif、Fixatif aérosol）は、素描やパステル画などの定着を目的としてスプレー状に噴射する保護剤を指します。主に木炭やコンテ、色鉛筆などの退色や汚れを防ぐために使用され、作品保存において重要な役割を果たします。
スプレーフィキサチーフの歴史的発展
スプレーフィキサチーフの起源は、18世紀のヨーロッパで素描作品を保存するために開発された液体フィキサチーフに遡ります。当初は松ヤニをアルコールに溶かした溶液を筆で塗布していましたが、20世紀中頃にエアゾール缶技術が発達すると、現在のようなスプレータイプが一般的になりました。
1950年代以降、アクリル樹脂を主成分とする製品が登場し、黄変しにくく耐久性の高い定着が可能になりました。特に美術教育現場やプロのアトリエで需要が拡大し、今日では多様な種類のフィキサチーフが開発されています。
材料科学的特性と種類
現代のスプレーフィキサチーフは、樹脂タイプとワックスタイプに大別されます。樹脂タイプはアクリル系やビニル系の合成樹脂を使用し、強力な定着力を持つのが特徴です。一方ワックスタイプは自然素材由来で、作品の質感をより自然に保ちます。
製品によって「マット」「セミグロス」「グロス」といった仕上がりの違いがあり、光沢度を選択できるようになっています。また、UVカット機能を備えた保存向けの高級品も存在します。
適切な使用法と注意点
効果的な使用には30cm程度の距離を保ち、均一に薄く噴射する技術が必要です。過剰な使用は作品の変色や質感の変化を招くため、複数回に分けて軽くスプレーするのが基本です。
特にパステル画では、最初に「ワーキングフィキサチーフ」で下層を固定し、最後に「ファイナルフィキサチーフ」をかける二段階の工程が推奨されます。換気の良い環境で使用することも重要です。
現代アートにおける意義と展開
今日では単なる保存剤としてだけでなく、表現技法の一部として積極的に活用されるケースが増えています。例えば、フィキサチーフをかけた層とそうでない層を意図的に作り分けることで、独特の質感対比を生み出す作品などがあります。
また、エコ意識の高まりから、VOC（揮発性有機化合物）を低減した水性タイプや、リサイクル可能な缶を使用した製品の開発が進んでいます。
まとめ
スプレーフィキサチーフは、美術作品の保存技術として不可欠な存在であると同時に、現代では新たな表現手段としても進化を続けています。
その発展は、アート素材の耐久性向上と表現可能性の拡大という、二つの側面で美術界に貢献し続けています。
