ビジプリ > 美術用語辞典 > 【テンペラ画】

美術におけるテンペラ画とは?

美術の分野におけるテンペラ画(てんぺらが、Tempera painting、Peinture à tempera)は、顔料を卵黄や水などの媒材で溶かし、特に木製のパネルに描かれる絵画技法です。中世からルネサンス時代にかけて盛んに使用され、その精緻で鮮明な表現が特徴です。特に宗教画に多く見られ、現代ではその技法が再評価されています。



テンペラ画の歴史と技法の発展

テンペラ画は、古代から使用されてきた技法で、特にヨーロッパ中世からルネサンス期にかけてその名を馳せました。顔料と卵黄を使った絵具は、非常に速乾性が高く、繊細で緻密な描写が可能でした。この技法は、宗教画やアイコンに多く使われ、その光沢感と透明感が特徴的でした。

中世からルネサンス期にかけて、テンペラは主に木製のパネルに施されることが多く、特に教会絵画や祭壇画に使用されました。ボッティチェリの「プリマヴェーラ」や、ダ・ヴィンチの「聖アンナと聖母子」など、テンペラを使用した名作が数多く存在します。これらの作品では、細部にわたる精緻な描写と美しい色彩が見事に表現されています。

しかし、16世紀に油絵技法が発展すると、テンペラ画は次第に油絵に取って代わられました。油絵はその柔軟性と乾燥時間の長さから、表現の幅が広がり、芸術家たちは油絵に移行しました。しかし、テンペラは今もなお、特に細密画や歴史的な復刻で使用されることがあります。



現代におけるテンペラ画の活用

現代においては、テンペラ画はあまり多く使用されていませんが、依然としてその独特の魅力に惹かれるアーティストは少なくありません。例えば、アメリカの現代画家(*注:例としてジョン・マーチンなど)は、精緻な技法を駆使して、伝統的な絵画技法を現代的なテーマで表現することに挑戦しています。また、テンペラ画はその繊細な表現から、古典技法を重視するアーティストに利用されています。

教育機関でも、テンペラ技法は重要な美術教育の一環として継承されています。例えば、多くの美術大学では、アートの基礎技術としてテンペラ技法を教えており、その伝統を守り続けています。学生たちは、古典的な技法を学び、現代アートとの融合を探る過程で、テンペラを使った作品制作に取り組んでいます。



テンペラ画の技術的特長と他技法との比較

テンペラ画の特徴として、まずその自然由来の素材に注目する必要があります。顔料と卵黄を主成分とするこの技法は、非常に速乾性が高く、絵画表現においては細密なディテールや繊細な色調表現が可能です。卵黄は顔料を結びつける役割を果たし、乾燥後は強固な膜を形成します。

他の絵画技法、例えば油絵と比較すると、テンペラは乾燥が速いため、重ね塗りやブレンドに時間がかからない一方で、油絵ほどの柔軟性を持ちません。油絵は長時間乾燥するため、アーティストが絵具を操作しやすいですが、テンペラは迅速な作業を要求します。また、油絵よりも透明感が強調され、軽やかな色彩表現が得られるという特徴があります。

メリットとしては、透明感や鮮明な色合い、そして乾燥後の耐久性に優れた点が挙げられます。一方、デメリットは乾燥が早いため、特に重ね塗りや微細な修正を行う際に技術が要求されることです。



テンペラ画の未来とデジタル技術との融合

現在、テンペラはデジタル技術との融合にも進展しています。デジタルアートとテンペラを融合させた作品制作が行われており、アーティストは伝統的な技法と現代技術を組み合わせた新たな表現方法を探求しています。

また、テンペラは持続可能なアート素材として注目されています。顔料と卵黄など、自然由来の材料を使用することで、環境負荷を低減することが可能です。現在の環境意識の高まりにより、アーティストは持続可能な素材としてのテンペラを再評価し、現代アートの一部として取り入れることが増えてきています。



まとめ

テンペラ画は中世からルネサンス期にかけて、精緻で細密な表現を可能にした技法であり、ボッティチェリの『プリマヴェーラ』やダ・ヴィンチの『聖アンナと聖母子』など、歴史的な名作が数多く生み出されました。油絵技法の普及により一時衰退したものの、現代でも再評価される技法です。

現代アートでは、テンペラを使用する作家や教育機関が増えており、その精緻さと色彩表現が新たな魅力を持っています。デジタル技術との融合や、持続可能な素材としての可能性も広がっており、今後ますます注目されることでしょう。


▶美術用語辞典TOPへ戻る



↑ページの上部へ戻る

ビジプリの印刷商品

ビジプリの関連サービス