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美術におけるフロアアートとは?

美術の分野におけるフロアアート(ふろああーと、Floor Art、Art au sol)は、床面をキャンバスとして活用する芸術表現の一種を指します。空間そのものを作品の一部と捉え、視覚的・身体的な体験を通じて鑑賞者と作品の関係性を再構築するアート形式です。



空間を活かす表現としての歴史と誕生

フロアアートは、近代以降の美術において、展示空間の制約から解放される表現のひとつとして登場しました。特に20世紀後半、ミニマルアートやインスタレーションアートが発展する中で、床面への関心が高まり、床そのものを作品の支持体とする動きが現れました。

この手法は、従来の壁掛け絵画とは異なり、観る者が歩いたり立ち止まったりすることで、作品とのインタラクションが生まれる点が特徴です。とくに公共空間や屋外、ギャラリー内の床面を活用することで、身体的な没入が可能となり、視覚と身体感覚を融合させた新しい鑑賞体験が提供されます。



言葉の由来とジャンルの広がり

「フロアアート」という言葉は、英語の“floor(床)”と“art(芸術)”を組み合わせた直訳的な表現であり、ジャンルとしては明確に区切られたものではありません。そのため、インスタレーション、パブリックアート、チョークアートなど、多様な実践が「フロアアート」の枠内に含まれることがあります。

ヨーロッパでは「Art au sol(地面の芸術)」という呼称が用いられることもあり、場との関係性を重視する作品群として理解される傾向があります。こうした呼称の違いも、その柔軟性と多様性を物語っています。



代表的な技法とアーティストの実践

フロアアートの技法は多岐にわたりますが、代表的なものに「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」の技法を用いた3Dチョークアートがあります。これは地面に遠近法を活用して描かれるもので、鑑賞者の位置や視点によって、立体的な錯覚を生み出します。

また、砂や花、布など非定着素材を用いた一時的なアート作品も存在し、宗教儀礼や祝祭などと結びついた表現も見られます。こうした作品は、儚さと再生というテーマを内包することが多く、時間とともに変化する過程そのものが作品の一部とされています。



現代社会におけるフロアアートの意義

現代において、フロアアートは教育、地域活性化、観光振興などさまざまな分野で活用されています。とくに街中のパブリックスペースを活用した作品は、鑑賞者を取り込みやすく、コミュニケーションの場としても機能します。

さらに、SNS時代においては写真映えする作品が人気を集め、記念撮影やシェアを通じてアートとの関わりが日常化しています。アートを鑑賞するだけでなく、「体験する」時代の芸術として、フロアアートはその重要性を増しつつあります。



まとめ

フロアアートは、空間と身体性を重視した表現として、美術の中でもユニークな位置を占めています。

床という日常的な場所にアートを展開することで、鑑賞者との距離を縮め、体験を共有する芸術として進化しています。今後も多様な技法や社会的背景を取り込みながら、新たな展開が期待されるジャンルです。


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