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美術におけるシュプレマティスムとは?

美術の分野におけるシュプレマティスム(しゅぷれまてぃすむ、Suprematism、Suprématisme)は、20世紀初頭のロシアで誕生した抽象芸術の運動です。幾何学的形態と純粋な色彩によって、現実世界の再現ではなく感情の表現を追求した前衛的な様式です。



シュプレマティスムの誕生と思想的背景

シュプレマティスムは、1915年にロシアの芸術家カジミール・マレーヴィチによって提唱された芸術運動で、物質的な世界から完全に脱却した「純粋な感情の至高性(supremacy)」を芸術に求めました。これが「Suprematism」という名称の由来です。

当時のロシアでは、政治的・社会的変動と共に芸術界も大きく揺れており、写実主義やキュビスム、未来派といった潮流の中からより抽象的・理想主義的な表現への欲求が高まっていました。その中で、マレーヴィチは感覚や精神の領域に直接訴える表現手段として、幾何学的抽象を選びました。

この運動は、視覚芸術における表現の本質を「形」と「色」のみに還元することで、感覚の根源に迫ろうとするものでした。



特徴的なビジュアル言語と主要作品

シュプレマティスムの作品は、直線、円、四角形、三角形などのシンプルな幾何学図形を組み合わせ、限られた色彩で構成されます。そこには遠近法や自然の再現といった伝統的な絵画の枠組みは存在せず、絵画空間は「無限の空間」として扱われます。

1915年に発表されたマレーヴィチの代表作『黒の正方形』は、黒い正方形が白いキャンバスの中央に配置されただけの構図で、物議を醸しながらも新しい絵画のあり方を示す象徴的な作品となりました。

このような表現は、鑑賞者に感情や思考の自由を委ね、現実的な描写を拒否することで、精神的解放を目指すという点で、当時の社会的変革とも共鳴していました。



構成主義との関係とロシア美術界への影響

シュプレマティスムはロシア構成主義と並行して発展しましたが、両者の目的には違いがあります。構成主義が工業デザインや建築への応用を視野に入れた機能的美を追求したのに対し、シュプレマティスムはより内面的・精神的な純粋芸術を目指しました。

しかし、マレーヴィチの影響を受けた多くの芸術家たちは、後に構成主義やバウハウス的思想に接近し、シュプレマティスムの形式が産業デザインやグラフィックにも影響を与える結果となりました。

その後のソビエト体制下では前衛芸術が弾圧され、一時期この運動は美術史から遠ざけられましたが、20世紀後半以降に再評価され、現代抽象美術の原点として確固たる地位を築きました。



現代美術への波及と国際的評価

今日では、シュプレマティスムは抽象絵画の出発点として広く認識され、アメリカのミニマリズムやヨーロッパの具体芸術、さらにはデジタルアートに至るまで幅広い影響を与えています。

マレーヴィチの思想は、現実を再現することから解放された芸術の可能性を示し、表現の自由そのものを拡張するものでした。とくにデザイン分野では、構成の単純性と視覚的インパクトを重視するアプローチとして、シュプレマティスムの原則が応用されています。

近年では、世界各地の美術館でシュプレマティスムに関する展覧会が開催され、20世紀の革命的美術運動として再評価が進んでいます。芸術を「見るもの」から「感じるもの」へと変えた点において、シュプレマティスムの存在意義は今もなお鮮明です。



まとめ

シュプレマティスムは、現実の再現を排除し、純粋な形と色彩で感情や精神世界を表現しようとした革新的な芸術運動です。

その思想とビジュアルは、多くの現代美術・デザインに受け継がれ、抽象表現の可能性を広げる基盤を築きました。マレーヴィチの試みは、今なお芸術の本質を問いかける存在として、世界中の創作に影響を与え続けています。


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