印刷業界における水なし平版印刷とは?
印刷業界における水なし平版印刷(みずなしへいはん、Waterless Offset Printing / Impression offset sans eau)とは、従来のオフセット印刷において使用される湿し水を必要としない印刷方式を指します。この技術では特殊な感光材料を使用した版を用いることで、水分を使わずに高精度な印刷を可能にします。環境負荷を軽減する印刷技術として注目されており、鮮やかな発色や高い印刷品質が特徴です。
水なし平版印刷の歴史と言葉の由来
水なし平版印刷の技術は1970年代に日本で開発されました。従来のオフセット印刷は、インクと水が混ざり合わない性質を利用して印刷を行いますが、湿し水に含まれる化学物質や廃液が環境問題として指摘されていました。この問題を解決するため、水を使わずにインクだけで印刷を行う技術として「水なし平版印刷」が誕生しました。
「水なし」という言葉は、湿し水を使わない点を強調しており、「平版」は版面が平らであるオフセット印刷の特徴を指します。この技術の確立により、環境に優しい印刷方法として国内外で普及が進みました。
水なし平版印刷の特徴と利点
水なし平版印刷には、以下のような特徴と利点があります。
1. 高品質な印刷: 水を使わないため、インクの安定性が向上し、鮮明で均一な発色が可能です。特に細かいグラデーションや高解像度の画像印刷で効果を発揮します。
2. 環境への配慮: 湿し水を使わないため、有害物質を含む廃液が発生せず、環境負荷が大幅に軽減されます。さらに、VOC(揮発性有機化合物)の排出量も削減されます。
3. 紙の伸縮が少ない: 湿し水を使用しないため、印刷用紙の伸縮が抑えられ、寸法の安定性が向上します。これにより、高精度な印刷が可能です。
4. 作業環境の改善: 湿し水の使用を廃止することで、作業環境が清潔になり、操作が簡便化されます。
水なし平版印刷の仕組みと技術
水なし平版印刷は、特殊な感光材料を使用した印刷版を用います。以下はその基本的な仕組みです。
1. シリコン層の使用: 印刷版の表面には、インクをはじくシリコン層が設けられています。この層が印刷しない部分を保護します。
2. 感光性樹脂層: 印刷する部分にはインクが付着しやすい感光性樹脂層が存在します。この層がインクを吸着し、印刷に必要な画像や文字を形成します。
3. インクの適応: 湿し水を使わないため、特殊なインクが使用されることが多く、安定した印刷品質を維持するよう設計されています。
水なし平版印刷の印刷業界での活用例
水なし平版印刷は、以下のような用途で広く利用されています。
1. 高級印刷物: 写真集やアートブックなど、高品質な印刷が求められる製品で使用されています。細かいディテールや色再現性が評価されています。
2. 環境意識の高い企業の印刷物: 環境保護に配慮した企業が採用するパンフレットやカタログの印刷に活用されています。
3. 短納期の印刷物: 湿し水による調整が不要なため、準備時間が短縮され、短納期の案件にも対応可能です。
4. 包装・パッケージ印刷: 高品質なパッケージデザインの印刷にも適しており、ブランド価値を高める印刷物の製造で利用されています。
水なし平版印刷の課題と未来
水なし平版印刷にはいくつかの課題も存在します。
1. コストの問題: 特殊な印刷版やインクを使用するため、初期導入コストや材料費が高くなることがあります。
2. 特殊インクの扱い: 湿し水を使わないことでインクの乾燥が速くなり、操作に注意が必要です。これが印刷工程でのハードルとなる場合があります。
3. 普及の難しさ: 従来のオフセット印刷技術が広く普及しているため、水なし平版印刷の導入には既存技術との調整が必要です。
未来においては、さらなるコスト削減や技術改良により、水なし平版印刷がより多くの印刷分野で採用されると期待されています。特に環境規制が厳しくなる中で、水なし平版印刷は持続可能な印刷技術としての地位を確立するでしょう。また、新しいインクや版材の開発が進むことで、より広範な用途に対応可能になると考えられます。